妖刀奇譚









足元から柱時計が午後10時を告げてくる。


この時間帯になるとさすがに車の交通量はぐんと減り、たまに思い出したようにエンジン音が通り過ぎるだけであとは静かだ。


居酒屋はないので、酔っ払いたちが騒いで歩くこともない。


思葉はシャーペンを机に転がして伸びをした。


両手を頭に載せて天井を見上げる。


1時間ずっと取り組んでいるのにちっとも課題がはかどらない。


苦手な数学だからというのもあるが、やはりあの櫛、あの櫛が気になるのだ。


どうしてここまで引っかかるのだろう。



(でも、観るのは嫌だなー。


絶対に何かあるって、あの櫛!


ああ、もう、何でおじいちゃんがいない初日からこんなことが起きんのよ)



ぴりぴりしてきた頭皮を掻きむしる。


ちょうどそのとき、1階から『人形の夢と目覚め』のメロディの一節が響いてきた。


続いて合成音声もはっきりとではないが聞こえてくる。


お風呂が沸いたのだ。


さっぱりして気分を変えよう。


シャーペンを挟んで数学のワークを閉じ、思葉は部屋着を取り出した。




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