アナザー・シンデレラ
第一楽章

狂った歯車

父親が娶ったのは、美しくもどこか妖しい雰囲気を醸し出している女性でした。
二人の美しい娘たちと家にやって来たのです。


「ようこそ、我が家へ」


父親が継母に笑顔で言うと、継母は満足そうに笑いました。


「本当にこんな立派な家に住んでもよろしくて?」


「勿論だよ。部屋だって沢山あるから、ドリゼラやアナスタシアも気に入るはずさ」


「まあ、娘たちのことまで気を配ってくれるなんてお優しいのね」


仲睦まじく談笑していると、不意に義姉の一人のドリゼラが口を開きました。



「ねえお父様、シンデレラはどこにいるの?」


その言葉を聞いた途端、父親の目つきが鋭くなりました。



「シンデレラ……?ああ、部屋にいるよ」


「折角家族が揃ったんだから、シンデレラも降りてくるように言ってよ」


今度はアナスタシアが口を開きました。


義姉は二人とも、父親の変化に気付いていないようです。



「あなた、娘たちもこう言ってるのだから、呼んであげたほうがよろしいんじゃなくて?」


継母がそう言うと、父親は困ったように笑い、二階に上がって行きました。






「シンデレラ」


父親の冷たい声が廊下に響きました。



「何でしょうか……お父様」


部屋から聞こえてくる小さな声。間違いなくシンデレラの声です。



「新しい家族がお前に会いたがっている。早く降りてこい」


「分かり、ました」



それだけ言うと、父親は踵を返して階段を降りて行きました。




自分の部屋でシンデレラは写真を見ていました。


数年前、家族三人で撮った写真です。



どこから歯車が狂ってしまったのでしょう?



シンデレラは服の袖をぎゅっと握り締め、扉へ向かいました。





「お母様……私は、悪い子なのですか……?」




ぽつりと呟いた言葉は、静寂によって掻き消されてしまいました。
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