悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence

6.強い雨 -神威-



「神威……神威……」




誰かがボクの名前を呼んでる。

耳に届くその声に引き寄せられるように
ボクはゆっくりと目を開けた。



真っ暗な場所。


視界が暗闇に慣れてくると、
この場所が見知らぬ部屋だと言うことに気が付く。




ボクはいったい……。



体にかかる布団らしきものを上に引っ張ろうとするものの、
想うように掛布団は引きあがらない。



モゾモゾっとボクが動いたのをきっかけに、
布団の上で何かがゴソゴソする。



「誰かいるの?」



モゾモゾと動く方へと声をかける。




「ご当主、お目覚めでございますか?」



少し離れたところから、
すぐに華月の声が聞こえた。




「華月か」

「えぇ、ご当主。
 華月でございます。御気分はいかがですか?」




そう話しかけてくる華月の声の後ろで
「華月、政成先生を呼んでくる」っと知らぬ声が告げて、
ドアを開く音がきこえた。



「華月、灯りを」

「ご当主、灯りをつけては桜瑛様がお目覚めになられてしまいます」



華月の言葉に、思わずベッドに感じる存在を意識する。



「華月、いいから灯りを。

 秋月の奴はどうした?
 って言うか、何故、桜瑛が此処に居る?」



桜瑛の名は、秋月桜瑛。


ボクと同じように、火龍を御神体に仰ぐ、
秋月家の火綾の巫女として宿命を背負って生きる存在。



家同士のパーティー会場で出逢って以来、
こうして親しく交流している。



確かに……最期を実感したボクは、桜瑛に一本の電話はした……。



だけどその電話の結果が、こんなことになるなんて
ボク自身も想像していなくて。




「桜瑛、何寝てんだよ。
起きろよ」


当初は隣の簡易ベッドで眠っていたらしい桜瑛は、
今はボクのベッドを奪う様にして足元で丸まって眠ってた。


まだ重怠さを感じる体を必死に起こして、
眠っている桜瑛の体を必死に揺する。



揺すった途端に、桜瑛の体は慌てて起き上がると
そのまま真っ直ぐにボクの目を捉えた。


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