若き店主と囚われの薔薇

道標、傍観者、その記憶に残るほどの



その日の夜、夢を見た。

エルガの奴隷屋に来てから、初めて見るクエイトの夢だった。


ただただ白いばかりの世界に、私はぽつんと立っていて。

遠くに、クエイトがいる。

こちらへ振り返って、微笑んでいる。


不意に辺りの白が消えて、今度は真っ暗な世界に変わった。

ただひとり、私の目に映るのはクエイトだけ。

愛してやまない、彼だけ。

そこへ繋がる白い一本道が、私の目の前に続いている。

私は、それを頼りに彼のもとへ走ろうとした。

けれどその瞬間、クエイトは消える。

一本道も、スゥ、と消えていく。


私の周りには、もはや黒だけ。


…道標が、消えた。

私の行動のすべてを決める、あのひとが消えてしまった。



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