巡逢~茜色の約束~

【Promise09 塗り潰された未来】

鍵をかけておこうと思った。

もう叶わないのなら、諦めるしかないのなら、いっそのこと。

鍵をかけて、胸の奥に仕舞い込んで……もう二度と、思い出すことのないようにと。



だけど無理だった。

簡単に割り切れる程、夢への思いは弱くなかったんだ。





冷たい夜風が肌を撫ぜる。

抱き締めていた腕を緩めると、美生は何も言わずに俺の目を真っ直ぐに見た。



その揺るぎない瞳に、心を決めて口を開いた。





物心ついたときからうちは、金はあるけど愛はないっていう、冷めきった家だった。

父親は店をいくつも経営してる、所謂カリスマ美容師で、母親はわりと名の知れたデザイナー。

俺のこともお手伝いさんに任せっきりで、殆ど家には帰ってこなかったんだ。



勿論、寂しいと思うことは沢山あった。

遊びにだって連れて行ってほしかった。

それでも、父さんと母さんは自分のために働いてくれてるんだから……って、歯を食いしばって我慢したよ。




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