僕の星

タイプなのに

 律子との電話を切ると、里奈はもそもそと朝食の残りを食べ、自室に戻った。
 今日はゆかりと映画を観る約束をしている。

 デニムを穿き、Tシャツの上に青いチェックのシャツを羽織ると、クロゼットの鏡を覗いた。

 前に美容院に行ったのはいつだったか……肩まで中途半端に伸びた髪が、野暮ったい。

「もう、いっそのことショートにしようかな」

 独りごち、バッグに財布とハンカチを詰め込む。
 ふと、ノートパソコンの上に置いてあるお守り袋に目をやった。
 里奈は迷った末、それもバッグに入れて、急いで家を出た。


 一戸建ての自宅の横には父親の工場がある。
 森村工業と看板を掲げて25年目。エクステリア製品の製造加工を手がけている。

 工場の真ん中で、父が鉄製の門扉を溶接しているのが見えた。
 頑固な横顔に汗が浮かんでいる。

 里奈は一人娘なので、父は工場の後継ぎに婿養子を迎えたいと思っているらしい。
 もちろん、父の眼鏡にかなう、腕の良い職人でなければ認めないだろう。

 下手をすると、父が勝手に結婚相手を決めてしまうかもしれない。
 その可能性もあると母が困ったように言うのを中学2年の時に聞いて、里奈はぞっとした。

 冗談じゃない。私は結婚なんてしない――

 そのあたりが、男の子に興味が持てない原因ではないかと、里奈は自己分析している。
 今時、結婚する相手を親に決められてしまうなんて、とんでもない話だ。
 
 ぱらぱらと雨が落ちてきたので慌てて傘を開く。
 里奈は駆け足で駅へ急いだ。


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