鬼伐桃史譚 英桃

第二話・苦渋の選択





 その日は巨大な暗雲が和の国全体を覆っていた。



 凄まじい嵐が吹き荒(すさ)ぶ。轟々(ごうごう)たる雷鳴が数カ所から鳴り響き、大地を震わせる。そうかと思えば、目を塞ぐような鋭い稲光が走り、和国を白に染めた。

 まるで、今から起こる出来事を先読みしているかのような、不吉な日だった。



 人里離れた緑に囲まれた山奥にある小さな集落――。

 男と女はいた。

 女の名は菊乃(きくの)。日差しが強いにもかかわらず、白い肌をしており、その肌とは対照的な腰まである艶やかな黒髪はとても美しく、凜とした細い顎に、ふっくらとした赤い唇。長い睫毛にすっと通った鼻筋。着物はところごころ裾が解れていて、長い間着用していることを表している。高価なものではないのに自身から気品が漂い、身に着けているすべてが尊いもののように見える。

 女はたいそう見目麗しい容姿をしていた。


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