鬼伐桃史譚 英桃
第四話・禁断の術
幾重にも伸びた枝枝が天を覆い隠す。忍びの里。
その名の由来はここから来るのであろうか。年の頃なら二十ほどの若い男は連日から振り続ける雨のせいでぬかるんでいる赤土の大地を何度も蹴り上げ、ひとつの社(やしろ)に向けて走っていた。
この若い男。この里の者であり、伝達の役目を担っている。
「菊乃(きくの)さま!!」
木戸を開けるとすぐに若い男が女を呼んだ。
土間に座していた女は、掛けられた声に体を震わせた。
視線の先は、いまだ自分が抱きしめている赤子にある。
村の衆の知らせが、とてつもなく悪い知らせであることを女は知っていた。
若い男は息を切らし、女の姿を捉えると、傍に寄り、無情にも女が今一番聞きたくない言葉を続ける。
「木犀(もくさい)様が……命を…絶たれました。あまりにも、強大な鬼であるが為、蘇芳 元近(すおう もとちか)様が御子、一の姫さまと二の姫さまのお体を媒介(ばいかい)に、封印を余儀(よぎ)なくされ、命と引き換えに……」