日常に、ほんの少しの恋を添えて

なんで会っちゃうの

 今週の専務は大人しかった。
 いつもならイレギュラーな視察に、突然の来客など、こっちが慌ててしまうようなことが週に何度か起きるのだが、今週に限っては専務はとても大人しく、予定通りの業務をこなしていた。
 でも今までが今までだったので、新見さんなんかは逆にどうしたんだろう、専務。とやけに心配そうに見守っていた。

 それに対して私はまたあの話題を振られるのではないかと、ちょっとだけハラハラしながら毎日専務と接していた。しかし専務の方からは何も触れてこなかった。

 あのままでいいはずはない。ちゃんと話して、専務という人間が嫌いなのではないことを説明したほうがいいに決まっている。

 だけど話そうと思うたびに、またあの話題を自分から振るのもどうなんだろうと思い留まる、の繰り返し。結局専務へと買っておいたお詫びの品は、未だ渡せずに私のバッグの中でひっそりと眠っているわけで。

「どうしよう……」
 
 バッグを開くたびに視界に飛び込んでくるお詫びの品は、見るたびに私を微妙な気分にさせる。

 もう、何のためにいろいろ悩んでお詫びの品買ったんだか……それに早く渡さないと、もうお詫びの意味が無くなってしまう。

 結局その週は、お詫びの品を渡すことができなかった。
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