日常に、ほんの少しの恋を添えて
刻々と迫る別れの時

それは突然のことで

 週が明けてみると、いつも通りの日々だった。
 専務は特に自分のことは話さないし、私も聞かない。
 あの日専務の家で聞いた話は実は夢だったのか、それとも立ち消えてしまったのか。それはわからない。
 だけどなんとなく、専務が以前よりよそよそしい。それだけははっきり感じた。

「長谷川ー、急だけど昼に会食が入ったから、俺の分の弁当お前食っていいよ」
「……わかりました。いただきます」

 こういった変更も通常運転。もう慣れた。
 だけど今回注文しておいたのは、この会社の近くにある洋食店のハンバーグ弁当。
 大人気で予約しないと買えないと聞き、先日電話で予約しておいたのに。なんでこのタイミングで会食入っちゃうかな。

 ――専務が食べたいっていうからお弁当頼んでおいたのに……

 食べられるのは嬉しいけど、ちょっと心がささくれた。
 すると椅子から立ち上がり、外出のため荷物の準備を始めた専務が「あ」と何かを思い出したように私を見る。

「そうそう。俺、頼んでおいた弁当一つ増やしてくれって追加で頼んだんだ。そういうわけで弁当二つあるから、お前と花島で食べればいいよ。花島には俺から伝えておくから」
「え。追加したんですか? 言ってくだされば私が手配したのに」
「美味いって評判の弁当一個だけ注文っていうのもなと思って。誰か食べてみたいって人もいるかもしんないじゃん」

 変なことろで変に気が回る人だなあ。
 私は心の中で感心する。
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