エリート御曹司が過保護すぎるんです。

【8】視線の行方

 体育館は、窓を全開にしているにも関わらず、かなりの蒸し暑さだった。
 窓も扉もすべて開いているのだが、涼しさなどまったく感じられない。

 バレー部員はこんな暑いなか、平気で動き回っているのだから尊敬してしまう。

「ごめんね。古い体育館で、空調ないんだ。めちゃめちゃ暑いけど、よかったら練習見ていって」

 申し訳なさそうな二階堂さんの態度が、なんだかかわいく思えた。

「大丈夫です。おじゃまします」

 私は差し入れの菓子を二階堂さんに手渡し、勧められたパイプ椅子に腰かけた。
 見学者のために置かれた扇風機の風が、ちょうどよく体の熱を冷やしてくれる。


 体育館のまん中にはバレーボールのネットが設置されていて、その周りではスポーツウェアの人たちが、それぞれストレッチをしたりパスの練習をしたりしていた。

(あの人、たしか人事部の主任さんじゃなかったかな。あの人も見たことがある)

 会社でのスーツ姿とは違い、みんなラフな格好をしているので、だいぶ印象が違う。
 服装だけではない。
 オフィスでは怖い顔で仕事をしているのに、みんな楽しそうに笑っている。

 全部で30人ほどだろうか。
 若手社員が大半だけれど、部長クラスの管理職もいた。
 会社のなかのビジネスライクな態度とは違って、みんな仲がよさそうだ。

 社員たちの意外な一面を見ることができ、それぞれに抱いていた印象が変わってく。
< 45 / 80 >

この作品をシェア

pagetop