光のもとでⅡ

Side 翠葉 12話

 夕飯を食べたあと、リビングのソファへ移動すると、
「さっき大学で一緒にいた人たち、誰?」
 唐突に訊かれてびっくりする。
 目を瞬かせると、手に持っていたカップを取り上げられ、真顔で詰め寄られた。
「ロータリーから見えた。タキシード着てる男たちに囲まれてるの。ピアノの先生には見えなかったけど?」
 言っていることは秋斗さんと同じだけど、若干きつい物言いに唖然とする。
 あのとき、蔵元さんが「嫉妬」と言っていたけれど、ツカサのこれも同じなのだろうか。
 車に乗ったときに機嫌が悪かったのって、知らない人たちといたから……?
 信じられない思いでツカサを見ていると、
「誰?」
 どうしてだろう……。
 じわじわと嬉しさがこみ上げてくる。
 嫉妬されて嬉しいなんて、変かな……?
 でも、自分を好きだからこそ生まれる感情だと思えば、そんな感情を抱いてもらえることや、見せてもらえることがたまらなく嬉しい。
 なんというか、「好き」と言われたわけじゃないのに、言われた気分。
 思い余ってツカサの腕に抱きつく。と、ツカサはひどく狼狽して見せた。
「ツカサ、好きっ!」
「それ、返事になってないんだけど……」
「うん」
 私はツカサにくっついたまま、
「あのね、今日、すっごく色んなことがあったの。全部、全部全部聞いてくれる?」
「聞くけど、その前に回答……」
「あのとき一緒にいた人たちは――えぇと、やっぱり最初から話したい。だめ?」
 ツカサの目を見ると、ツカサはひとつため息をつき了承してくれた。

 座面の広いソファに上がりこみ、体育座りをした状態でツカサの腕に自分の腕を絡ませる。と、ツカサは絡ませた腕の手を、優しく握り締めてくれた。
 自分より少し高い体温が指先から伝い、心まであたたかくなりそう。
 でも、少し乾燥してる……?
 今度、ハンドクリームを作ってプレゼントしようかな。
 酸化しづらくて浸透力の高いオイルといったら何があるだろう……。
 おうちに帰ったらオイルの本を開こう。
 油分が多くてヌルヌルするのは好きじゃないって言われそうだから、水分多めでアロエベラとか入れてみようかな……。
 ついレシピに気を取られていると、控えめに手を揺すられた。
「秋兄とは?」
「え?」
「今日一日一緒だったの?」
「ううん、柊ちゃんと合流するまでの二、三分くらい。なんか、仕事のような趣味のような市場調査って言ってたけれど、なんだったんだろう?」
 未だに意味のわからない私に対し、ツカサは聞くなり納得してしまったふうだから面白くない。
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