何度でも恋に落ちる

2・雪と共に消えた

視界に映るのは雪の白、翼の黒いコート、風に靡く自分の赤いマフラー。



「本当にみんなで来ちゃったね」

「うん。俺、初めて来たけどさすがに寒いね。…北海道は」



冬休み前から計画していた千夏と真弓の里帰り。


それについてきた翼と隼人。




「隼人、寒い?」

「寒いに決まってんだろ!俺は湘南育ちの夏人間だぞ!!」

「湘南育ちの夏人間って何よ。仕方ないなぁ、私のマフラーも貸してあげるよ」



真弓はガタガタと唇を震わす隼人に自分がしていたマフラーを巻き付けた。



隼人と真弓は隼人の浮気で喧嘩をしていたのが嘘かのように、元に戻っていた。




「…真弓と隼人さん、仲直りしてくれたのは嬉しいけど、前以上にイチャイチャするようになったよね」


「そうだね。喧嘩してた方が静かでよかったかも」



真弓は一度の過ちは許す事にしたのだった。


翼と千夏は苦笑いをすると、千夏の実家へと向かった。




東京の雪に比べて、綺麗で柔らかい北海道の雪。



「翼と隼人さんは近くのホテルに泊まるんだよね?」


「うん。ホテルって言ってもビジネスホテルだけど。まさかちーの実家には泊まれないからね」


「別に泊まってもいいのに。ウチの親、恋愛に厳しくないよ?」



千夏が翼の顔を見上げると、翼は微笑みながら首を振った。




「…泊まらせてもらうのは結婚報告に行く時でいいよ」

「え?何?」

「何でもないよ」



翼はそう言うと何処かに走っていってしまった。


千夏が首を傾げていると、サクサクと足音を立てて翼が戻ってきた。



翼は千夏の手を握り、いつものようにポケットの中に入れる。




ポケットの中に入った凍てついて感覚がなくなっていた手は、じんわりとあたたかくなってくる。



「…ココア買ってきたの?」

「そ。自販機が見えたからね」



翼の優しさが寒さを吹き飛ばしてくれる気がした。
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