籠姫奇譚

宵の章


「今日は元気がないね」


「えっ?」


先程から上の空の珠喜を心配し、貞臣が声を掛ける。

すると我に返った珠喜は小さな声で告げた。


「ごめんなさい。つい……」


「何かあると珠喜はすぐ顔に出すからね。どうかしたのかい?」


貞臣の問いかけに、珠喜は空を見つめながら答える。


「此処は鳥籠。籠女は翼を無くした飛べない小鳥」


「珠喜……」


「自由になれないのは辛い。なら、いっそわたくしは華になりたかった。最初から自由を望むことなく、貴方の元で咲き誇る大輪の華に」


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