日ノ本時代男子
第一章、初めまして、時代のみなさん
思い出せ、思い出せ私!

確か私は歴史と文芸が好きなだけの、目立つ特技もなく、取り立て特徴のない平々凡々を絵に描いたような女子中学生だったはず……。

「さぁ、みなさん待っていますよ」

黒いコートに身を包んだメガネの男性が私の方を振り向く。

じゃあ、何で豪華そうな建物に連れて来られているんだっけ……!?

✳✳✳

家でポテチを食べながらダラダラと、リビングの机に置いた歴史の穴埋めプリントと睨めっこをしていた。

私―――初野(ういの)美空(みそら)は中学三年生。つまり受験生!

しかし、明日は小テストなのに宿題は全然埋まらない。
いや、歴史は好きなんだけどね。テストとなれば話は変わってくるわけですよ。

「やる気でなーい!やる気はどこ!びわ湖さんに落としたかな……今度拾お」

プリントの上には、無慈悲(むじひ)な『社会科小テスト』の文字。

さすがに前回の小テストで赤点をたたき出したので、今回頑張らないとマズい。

……そんなことを考えていた、その時。

ピンポーン。

間の抜けた電子音が、部屋に響いた。

「ごめんください、奈良さんの使いの者です」

奈良さん?奈良県のことかな?それとも珍しい名字とか?

でも、私の交友関係にそんな名字の人はいない。

なんだろう、新手の訪問販売かな?

なんて軽い気持ちで玄関扉を開けると、そこにはピカピカに磨かれた黒塗りの高級車。

その車を背にした一人の青年が立っていた。

「お初にお目にかかります。初野美空様。貴方をお迎えにあがりました」

……え?

脳が一拍、完全に止まる。

「……え、えぇ……ひ、人違いです……うち、新聞も宗教も、高級車も間に合ってますので……!」

そう答えたはずなのに、その青年は、まるで最初から分かっていたかのように静かに微笑んだ。

「人違いじゃないですよ。さぁ行きましょうか」

​そのまま半ば強引に黒塗りの高級車へ押し込まれ、揺られることしばらく。そして、今に至る……。

広々としたアプローチの向こうに、重厚な建物がそびえ立っていた。

宮殿なのか城なのか、とにかくその規模は広大だ。四階建ての砂糖菓子の様な純白の外壁にはアーチ型の半円の窓がずらりとはめ込まれている。

「外からマシンガンをぶっ放しても内部には傷一つない程の堅牢(けんろう)な造りなんですよ。まぁ、他の人には見えませんが」

​『今日も良い天気ですね』とでも言うような軽やかさで、物騒極まりない話をさらりと言ってのけるメガネさん。

(わー、すごーい。あれ、ドキドキするような非日常って意外と不安しかない。漫画の主人公ってすごいなー……)

連れて来られた部屋は、思わず言葉を失うほど豪華だった。

吹き抜けのエントランスの天井には、シャンデリアがぶら下がっている。階段の手すりはとてもよく磨かれているのか木がすべすべだし、廊下にも高価そうな骨董品の数々。

「あの……メガネさん」

「どうしましたか?」

「もしかして私、知らず知らずのうちに国家秘密に触れちゃって、今から消されてしまうんですか……?」

「何でそんな発想になるんですか!?」

メガネさんがツッコんだその刹那(せつな)。

「君が期待の新入りくんか!」

​誰もいないはずの頭上から、朗らかな男性の声が降ってきた。

「め、メガネさん!お、お化けが……!」

「お化けじゃないです。あと、外套(がいとう)を引っ張らないで下さい……」

万が一の時はこのメガネさんを盾にしようと決意し、必死で彼の背中にしがみつく。

すると、上から人が降ってきた。

「改めまして、俺の名前は奈良。よろしくなっ、若人(わこうど)!」

「変な人が降ってきたぁ……!」

「ぐぇ……」

情けなく叫びながら、私はさらにメガネさんの背中へと身を隠す。

勢いよく立ち上がった着物姿の男性――奈良さんは爽やかに笑っていた。

「ここにいる人達は全員、『時代』の化身なんですよ。まぁ、詳しく言えば時代区分ですけれど」

「時代……?」

ニコリと人当たりの良い笑みを浮かべるメガネさん。

「メガネさんも……?」

「ええ、僕は明治と申します。アジアの列強を目指して欧化政策を取り入れていました」

メガネさん――いや、明治さんの自己紹介に続いて、今度は奈良さんの後ろから、ぴょこんと赤毛の男の子が顔を出して元気よく手を挙げた。

「おりゃあは稲作文化が生まれた、弥生ばい!」

ニコッと熊本弁を話す弥生くん。身長は私より小さい。

「……いやいや!そんな元号の化身ですって言われても、理解できないよ。それに何で私を呼ぶんですか?」

(もしかして、日本の時代VS私……!?)

「戦いません」

呆れたように明治さんがツッコむ。

「それは、若人が―――」

何かを言いかけた奈良さんをバインダーで叩いた明治さん。
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