こじらせCEOの壮大すぎる初恋計画 〜二代目女社長、冷徹なライバルに理不尽な政略結婚を迫られたはずが、すべては22年前からの策略でした!?〜
2.帰国
「明日は家に帰ろう」
まだ父が「ただいま」と帰ってくるのではないかと期待してしまう気持ちを消さなくては。
父が亡くなって4ヶ月経ったが、スーツを見るだけでもツラくてずっと片づけをする気にはなれなかった。
でも、今ならできそうな気がする。
あの男に愚痴ったら少しだけ心が軽くなったから。
日曜日、遥は朝から実家へ行き、父の服や靴を処分した。
月曜日から木曜日も仕事のあとに実家へ戻り、ごみを分別していく。
「お父さん、こんなの残していたの?」
押し入れから出てきたのは、遥が小学生のころに描いた父の絵。
かきぞめ大会の賞状、県で表彰された作文が載った雑誌。
遥でさえ忘れていた思い出がどんどん掘り起こされていく。
「あっ! これお父さんのパソコン教室の写真だ」
遥が小学校に入学したころ、ツクモソフトは社会貢献の一環で子どもたち向けのプログラミング教室を開いていた。
画面のアイコンを組み合わせて自分が描いた絵を動かすという、今思えばとても簡単なゲームだ。
「わっ、ヤスさん若い!」
22年前の髪がふさふさなヤスを見た遥は笑いながら写真を捲っていく。
「あ! この子。すごく真剣に作っていた子」
うまくできないと泣いちゃうほどプログラミングにのめり込んでいた男の子だ。
やっと完成したゲームの画面の前でなぜか一緒に撮った写真を遥は眺める。
「なつかしいな~」
今は何をしているのだろうか。
エンジニアになっていたら面白いけれど。
残念ながらプログラミング教室は一年で終わってしまったので、遥はプログラミングができるようにはならなかった。
もっとちゃんと勉強していれば、今頃は私も富樫みたいに天才的なソフトが作れたかもしれないのに!
「残しておけないし絵は写真を撮って捨て……あ、そういうアプリを作ればいいんだ」
子どものポスターや工作を写真で保存している人はいると思う。
でもスマートフォンを機種変更してしまったら写真は前の本体に残ってしまうし、パソコンに移動させるのも面倒だと思う人もいるから。
選んでアルバムが作れる機能とか、動画ができるとか。
「結婚式のメモリアル動画にも使えるかもしれない」
遥はサンプル代わりに自分の絵や工作を写真に撮った。
全部は撮れないので、とりあえず捨てずに箱にまとめて部屋の片隅に。
「佐久間と富樫に話してみよう。アプリだからヤスさんの方がいいかな?」
アプリを作るのがどのくらい大変かはわからないけれど、アイデアを言うくらいはいいよね?
遥はだいぶ片付いてきた家の中を見ながら、父のスーツも捨てる前に写真を撮っておけばよかったかなと少しだけ後悔した。
◇
隼人がロサンゼルスに行き、連絡がないまま一週間。
よく考えれば、隼人とは連絡先を交換していなかった。
名前とマンションと、料理好きで几帳面ということしか知らない相手の婚約者だなんて、自分でも馬鹿げていると思うけれど。
でも隼人のおかげで、父の持ち物を処分する気持ちになれたのは事実だ。
帰ってきたらお礼を言わなくては。
「作れるよ」
「さすが天才富樫ね」
遥がアプリを提案すると、富樫はあっさり作れると答えてくれた。
「フォルダ分けも必要だな」
「フォルダ?」
「兄弟がいたら、分けたいだろ?」
「えっ、佐久間も天才?」
「なんで疑問形だよ」
ひとりっ子の遥にその発想はなかったが、兄弟で分けたり、イベントで分けたりする機能は必要になりそうだ。
ヤスも入れてどんな仕様にするか盛り上がっていると、だんだん人が集まり、いつのまにか全員で考えるほど盛り上がってしまった。
子どもがいる人はもちろん、いない人も趣味の写真を保存するのに使えそうだと。
ソロキャンプが趣味の鈴木が、音楽をつけてSNSにアップしたいと言うと何人もが同意していた。
「なぁ、ハルカ。このあとどっかで飯食いながら打ち合わせしようぜ」
みんなからの要望を手書きでまとめた紙をペンでトントンと叩きながら佐久間が遥を飲みに誘う。
「あっ、もう定時? 残業代つかないけどいい?」
「期待してない」
帰り支度をしながら近場でいいよなと笑う佐久間と会社の戸締りをし、遥はいつものように会社の扉の鍵をかけた。
「焼き鳥か、串カツか?」
「え~? だったら」
「……だったら?」
こんな場所で聞くはずがないバリトンの声に遥の身体はビクッと揺れる。
どこで浮気するつもりだと腕を組みながら怒っている黒豹のような男に、遥は視線を泳がせた。
まだ父が「ただいま」と帰ってくるのではないかと期待してしまう気持ちを消さなくては。
父が亡くなって4ヶ月経ったが、スーツを見るだけでもツラくてずっと片づけをする気にはなれなかった。
でも、今ならできそうな気がする。
あの男に愚痴ったら少しだけ心が軽くなったから。
日曜日、遥は朝から実家へ行き、父の服や靴を処分した。
月曜日から木曜日も仕事のあとに実家へ戻り、ごみを分別していく。
「お父さん、こんなの残していたの?」
押し入れから出てきたのは、遥が小学生のころに描いた父の絵。
かきぞめ大会の賞状、県で表彰された作文が載った雑誌。
遥でさえ忘れていた思い出がどんどん掘り起こされていく。
「あっ! これお父さんのパソコン教室の写真だ」
遥が小学校に入学したころ、ツクモソフトは社会貢献の一環で子どもたち向けのプログラミング教室を開いていた。
画面のアイコンを組み合わせて自分が描いた絵を動かすという、今思えばとても簡単なゲームだ。
「わっ、ヤスさん若い!」
22年前の髪がふさふさなヤスを見た遥は笑いながら写真を捲っていく。
「あ! この子。すごく真剣に作っていた子」
うまくできないと泣いちゃうほどプログラミングにのめり込んでいた男の子だ。
やっと完成したゲームの画面の前でなぜか一緒に撮った写真を遥は眺める。
「なつかしいな~」
今は何をしているのだろうか。
エンジニアになっていたら面白いけれど。
残念ながらプログラミング教室は一年で終わってしまったので、遥はプログラミングができるようにはならなかった。
もっとちゃんと勉強していれば、今頃は私も富樫みたいに天才的なソフトが作れたかもしれないのに!
「残しておけないし絵は写真を撮って捨て……あ、そういうアプリを作ればいいんだ」
子どものポスターや工作を写真で保存している人はいると思う。
でもスマートフォンを機種変更してしまったら写真は前の本体に残ってしまうし、パソコンに移動させるのも面倒だと思う人もいるから。
選んでアルバムが作れる機能とか、動画ができるとか。
「結婚式のメモリアル動画にも使えるかもしれない」
遥はサンプル代わりに自分の絵や工作を写真に撮った。
全部は撮れないので、とりあえず捨てずに箱にまとめて部屋の片隅に。
「佐久間と富樫に話してみよう。アプリだからヤスさんの方がいいかな?」
アプリを作るのがどのくらい大変かはわからないけれど、アイデアを言うくらいはいいよね?
遥はだいぶ片付いてきた家の中を見ながら、父のスーツも捨てる前に写真を撮っておけばよかったかなと少しだけ後悔した。
◇
隼人がロサンゼルスに行き、連絡がないまま一週間。
よく考えれば、隼人とは連絡先を交換していなかった。
名前とマンションと、料理好きで几帳面ということしか知らない相手の婚約者だなんて、自分でも馬鹿げていると思うけれど。
でも隼人のおかげで、父の持ち物を処分する気持ちになれたのは事実だ。
帰ってきたらお礼を言わなくては。
「作れるよ」
「さすが天才富樫ね」
遥がアプリを提案すると、富樫はあっさり作れると答えてくれた。
「フォルダ分けも必要だな」
「フォルダ?」
「兄弟がいたら、分けたいだろ?」
「えっ、佐久間も天才?」
「なんで疑問形だよ」
ひとりっ子の遥にその発想はなかったが、兄弟で分けたり、イベントで分けたりする機能は必要になりそうだ。
ヤスも入れてどんな仕様にするか盛り上がっていると、だんだん人が集まり、いつのまにか全員で考えるほど盛り上がってしまった。
子どもがいる人はもちろん、いない人も趣味の写真を保存するのに使えそうだと。
ソロキャンプが趣味の鈴木が、音楽をつけてSNSにアップしたいと言うと何人もが同意していた。
「なぁ、ハルカ。このあとどっかで飯食いながら打ち合わせしようぜ」
みんなからの要望を手書きでまとめた紙をペンでトントンと叩きながら佐久間が遥を飲みに誘う。
「あっ、もう定時? 残業代つかないけどいい?」
「期待してない」
帰り支度をしながら近場でいいよなと笑う佐久間と会社の戸締りをし、遥はいつものように会社の扉の鍵をかけた。
「焼き鳥か、串カツか?」
「え~? だったら」
「……だったら?」
こんな場所で聞くはずがないバリトンの声に遥の身体はビクッと揺れる。
どこで浮気するつもりだと腕を組みながら怒っている黒豹のような男に、遥は視線を泳がせた。