亡国の悪役令嬢、呪われたショタ王子に拾われる
第4章 魔石鉱山の攻防
 三日後——。
 シリウスはゆっくり瞼を開いた。
 徐々に意識を覚醒させながら、琥珀色の目を左右に動かして周囲を窺う。

 一瞬、どういう状況なのかさえ理解できなかったが、ここは自分の部屋に自分のベッドだ。
 いつも時間になったら起こしてくれるサミュエルがいない。
 彼の名を呼ぼうとして、咄嗟に声が出ないほど喉がカラカラに渇いていると気づいた。

「んん……?」
 体を起こそうと左腕に力を入れたシリウスは、痛みに顔をゆがめた。
 魔獣に噛まれたのだと思い出して、ハッと左腕に視線を走らせる。
 包帯が巻かれているが、腫れは引いたようだ。ジンジンした痺れと熱はもうない。

 窓に目を向ければ、カーテンは開いていて外は明るい。
 どれぐらい眠っていたのだろう。まだ頭が上手く働かないということは、相当長く眠っていたのかもしれない。
 シリウスが軽く頭を振っていると、カチャリとドアが開いた。
 サミュエルが顔を覗かせる。

「シリウス様、起きていらしたのですね!」
 上半身を起こしているシリウスに気づいたサミュエルは、慌てた様子でベッドに駆け寄った。
「おかげんは……」
 その言葉をさえぎってシリウスがかすれた声で問う。
「正直に言え。俺は何日寝ていた」

 サミュエルは言いにくそうに視線をさまよわせた。
「三日です」
「三日……だと?」
 シリウスの顔がみるみる険しくなる。
 その様子に震えあがりながら、サミュエルが弁明する。
「大声でライアス殿下を怒鳴りつけて興奮したせいで、倒れられたではありませんか」

 言われてみればそうだったかもしれない。
 シリウスはこめかみを押さえて記憶を手繰り寄せた。
 ライアスに向かって火薬を寄こせと怒鳴りつけたことは、なんとなく覚えている。
 
「熱が大変高くて危険だということで、鎮静剤を使ったのです。ゆっくりお休みになっていたおかげで、むしろ治癒が早いと侍医が言っていました」
「そうか……」
 シリウスは左手の指を動かしたり拳を握ったりしてみた。痛みはまだ残っているが、問題ない。
 城に帰還した直後は腫れがひどくて指もろくに動かせなかった。
 それを思えば、たしかに劇的に回復している。治療効果を促進するための睡眠だったのなら仕方ない。

「侍医を呼んで参ります」
 逃げるように退室するサミュエルの背中を見送りながら、シリウスはマリアも呼んでほしいと言おうか迷ってやめた。
「まずはさっぱりして、食事が先だな」
 猛烈な空腹を感じるのも元気になった証拠だろう。
 シリウスは再び横になった。

 この時の自分が随分のんびりしていたとシリウスが気づいたのは、食事をすませた後。
 侍医の診察で湯あみの許可が下り、体を綺麗にした。食事も終える頃には、窓の外はもう夕焼け空が広がっていた。

「ライアスとマリアを呼んでくれ。火薬の話の続きをしたい」
 シリウスは、背筋をしゃんと伸ばして執務机に座る。
 少年の体には不相応な立派な机だ。この部屋も机も、英雄王子と呼ばれていた頃からずっと使っている。
 机を挟んでおけば、ライアスに掴みかかることなく冷静に話せるだろう——そんなことを考えていたシリウスは、サミュエルの返答に戸惑った。

「マリア様は、いらっしゃいません」
「俺がマリアの部屋を訪ねたほうがいいってことか?」
 小首を傾げるシリウスに、サミュエルは思いもよらないことを告げた。

「マリア様は、魔石鉱山に向かわれました」

 シリウスは息を呑み、目を大きく見開いた。
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