『星砂の降る船で』 桜井ジン
第二話
おだんごのゆうわく

 宝船の真ん中で、だいちゃんは石のように固まっていた。目の前の皿には、真っ白なだんごがヒラヒラと星砂をかぶっている。数えると、どうしても一つ足りない。
「……食べては、ならんのです」
 だいちゃんは、すすけたこづちを甲板にドンと置いた。えびやんが、ふにゃりと笑って箸を伸ばそうとする。
「一つくらい、いいじゃない。ぼく、お腹が空いちゃった」
 だいちゃんは、その箸をこづちの角でトントンとたたき、そっと戻した。
「だめなものは、だめ。自分との約束を破ったら、船は真っ逆さまに落ちるのです」
 おだんごは、ただ静かに、そこにあるだけだった。だいちゃんの腹が、また一つ、グゥと大きく鳴る。べにたんは、びわの裏をポリポリかいた。星砂が糸にヒラヒラからみつく。
「一つ減ったくらいで、空は落ちてこないわよ」
 ロクさんは、長い頭を皿の上に近づけた。鼻先でだんごの粉をフーッと吹く。
「数とは……誰が決めたのかのう」
 ほていは、お腹をポンとたたき、にへらと笑う。
「お腹が鳴るのも、一つの合図だよぉ」
 びしゃんは、だんごをじっと見て、拳をギュッと握った。鎧の指がカチカチ鳴る。
「お腹減ってるやつを、ほっとけねえ」
 おじいは、だまって湯のみを持ち上げ、コトンと置いた。湯気がヒラヒラ立ちのぼる。
 だいちゃんは、だんごの皿の縁をギュッとつかんだ。指先が白い粉でまっ白になる。
「決めたことは、やる。お腹がグゥと鳴っても、やる」
 えびやんは、天井を見上げた。梁の影がユラユラ揺れている。
「でもさ、誰かが食べちゃったんだよね」
 べにたんは、ポロンと一音鳴らした。音がだんごに当たって、ポフンと転がる。
「だったら、その人は、今ここで怒られてないじゃない」
 ロクさんは、長い頭を左右にユラユラ振る。
「罰は……どこにあるのかのう」
 風が吹く。星砂がヒラヒラ舞い込み、だんごの上に積もる。だいちゃんは、目をぎゅっと閉じた。こづちを甲板にトントンと打ちつける。
「船のきまりは、ここで守るのです」
 えびやんは、箸を置いた。指を口に入れて、ちょっとなめる。
「じゃあ、みんなで数え直そうか」
 七人は、だんごを指さす。
「いち」
「に」
「さん」
「よん」
 声がポロポロ落ちる。おじいだけは、声を出さなかった。ただ、指で、板の上に数をそっと書いた。
 べにたんが、皿の裏をひっくり返した。星砂がバサッと舞う。そこに、小さなだんごがくっついていた。
「ほら、いた」
 ほていは、ゴロンと笑う。
「だんごも、かくれんぼするんだねぇ」
 だいちゃんは、その小さなだんごをそっと皿に戻した。粉まみれの指で、位置をピタリとそろえる。七つのだんごが、丸く並ぶ。星砂がヒラヒラ落ちて、白い山になる。だいちゃんは、深く息を吸った。お腹が、グゥではなく、コトンと静かになる。
「決めたことは、守れたのです」
 えびやんは、にこにこしてだんごを一つ持つ。べにたんは、びわで小さく祝いの音を鳴らした。びしゃんは、だんごを半分に割り、とっておく。おじいは、ただうなずく。湯気が、ヒラヒラと天井へ上っていく。
 宝船は、ギイ……と小さく軋んだ。星砂がまた、甲板にヒラヒラ積もる。七つのだんごは、同じ速さで、ちんまり減っていく。だいちゃんは、こづちを膝に置き、静かに笑った。
「こづちを振るにも、正しい順序ってもんがあるんだ」
 船は、何事もなかったように、ゆっくり進み続けた。
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