ねえ、はやく降参してよ。 ――同じ苗字になっても、まだ足りない。甘くて焦れったい心理戦を続ける夫婦。
第十八夜:今さら?
出発の朝を迎えた。
最後の荷造りを見せたくなくて、マナより一時間早くベッドを出た。
リビングのカーテンを開け、見慣れた景色を覗く。
まだ六時台だというのに、外はすでに陽炎の気配を漂わせていた。
荷物を隙間なく詰められ、いまにも弾けそうなほど膨らんだスーツケース。
固いロックをかけ、玄関の脇に移動させた。
そして、彼女の好物の準備へと取り掛かる。
小気味よい音を立てながら、卵と牛乳を混ぜ合わせる。
マナは甘さ控えめを好むため、砂糖は規定量の三分の二程度にしている。
バターが溶けきる直前にパンを滑り込ませると、香ばしい匂いが漂う。
重たい空気を、優しく塗り替えていくようだった。
黄金色に変わっていく姿を、ただじっと見つめていた。
卵とバターの甘さを閉じ込めたそれが出来上がった。
マナのお気に入りの皿に盛り付け、寝室へと向かう。