鬼同期が家だとオカンだったし、その後スパダリに進化した

30.鬼同期と一日目

 食べ終わって残ったおにぎりは私と紫月(しづき)のお弁当箱に入れておいた。


「片付けが終わったらスーパー行こう。酢の物作りたいんだろ? 弁当にも入れられるしさ」


 一緒に片付けをしていると、紫月が「あー……あのさ」とそっぽを向いて切り出した。


秦野(はたの)の弁当さ、あれ、味見頼まれてただけだから」

「味見?」

「うん。彼氏に手作り弁当を食べて欲しいけど、いきなり、彼氏に渡すのはハードルが高いから味見してくれって頼まれたんだ。少し前に美颯が弁当作ってきたときにさ、俺が味見しただろ? あれを秦野が見てたみたいでさ。自分もお願いしますって」

「マジで?」

「マジで」


 は、恥ずかしい!

 流しに向かっていたのに、その場でうずくまりたくなった。

 私はそんなことに嫉妬して仕事中に泣いたのか。恥ずかしすぎる……。

 紫月は苦笑して皿洗いを終えた。


「ごめん」

「いいよ。いいきっかけになったし。……で、俺の彼女は手作り弁当作ってきてくれたりする?」


 ニヤッと笑って、紫月は私を覗き込んだ。


「そっちのほうがハードル高いじゃん! あの、まず見本お願いします」

「あはは、俺が本気出したらすごいぞ? お前、真似できないだろ」

「……えっと、私にできそうなものから……!」

「任せとけ。とりあえず、買い物行こうぜ」

「行こう行こう」


 私は炊飯器を自分の部屋に持って帰って軽く支度を整え、部屋の前で待ち合わせた。

***

 せっかくだしってことで、手をつないで近くの公園まで散歩に行った。

 夏休みの公園は日差しが眩しくて、セミの声も賑やかだった。子どもたちがあちこちを走り回っている。そりゃそうだ。


「次はこういうところでピクニックしてもいいかもな」

「そうだねえ、あっちの丘にテントいっぱい張ってあるよ」

「凧揚げしてる」

「今はカイトっていうらしいよ」

「おっさんにはついていけねえなあ」


 キッチンカーでアイスを買って、木陰のベンチに並んで腰を下ろした。

 海の方から潮の匂いが流れてきて、花壇では枯れかけのヒマワリが風に揺れている。


「そういえば、美颯(みはや)はどっかで夏休み取る予定ある?」

「いつも九月の連休につなげて取ってるよ。そっちは?」

「あー、だから秋の頭はいつもいないのか。俺は仕事次第だけど、せっかくだし今年は美颯に合わせようかな」


 それもいいかもしれない。ちょうどいくつかの仕事でバディを組んでいるから、休みも合わせやすいし。


「じゃあ、そこでグランピング行かない? 今度は泊まりで」

「いいじゃん。キャンプメニュー考えねえと」

「わ、楽しみにしてる」

「泊まりってさ……」


 紫月が言いかけて止めた。

 アイスの包み紙を手元でくちゃくちゃに丸めている。


「なあに?」

「……そういうことを、期待していいわけ?」

「そういうって……?」


 意味が分からなくて首を傾げたら、紫月はブハッと吹き出した。


「いや、いい。うん。そうだよな。美颯はそういうやつだわ」

「えっ、なに?」

「もうちょい近くなったら言う。行こうぜ、買い物して、明日の弁当作らねえと」


 紫月が笑いながら手を差し伸べたから、私はよくわからないまま手を重ねた。



< 72 / 79 >

この作品をシェア

pagetop