鬼同期が家だとオカンだったし、その後スパダリに進化した
 スーパーに行くと、本当に酢の物の素が並んでいた。


「すごい……! これでいくらでも酢の物が食べられる!!」

「そんなに好きか?」

「うん。ビールと酢の物があれば天国だと思います」


 酢の物の素を嬉々としてカゴに入れ、野菜売り場に移動した。

 昨日話したキュウリとミョウガを探す。


「ウケる。あとはワカメと……タコとかどう?」

「好き」

「何が」

「タコと紫月が」

「まだタコくらいかー」

「ただのタコじゃないよ、酢の物に入ったタコだよ」

「はいはい」


 ワカメは乾燥にするか生にするか少し悩んで、結局生を買った。


「生の方がうまいから。作り置きの酢の物と、晩飯にワカメの味噌汁とワカメの刺身、どう?」

「いいねえ。あとごはんと……」

「じゃあ美颯でもできるやつにするか」


 紫月に連れて行かれたのは肉コーナーの隅だった。


「味付き肉。なんと野菜も入ってる」

「すごい! 炒めるだけ?」

「そう、炒めるだけ。米炊いてこれ炒めて、レトルト味噌汁にお湯入れたら、それだけでいい感じの晩飯」

「すごい」

「というわけで、今夜はこれを作ってもらいます。これがうまくいったら次はクック○ゥな」


 もしかして、けっこう長期的な私の育成計画があったりするのかな?

 紫月は楽しそうに味付き肉の説明をしてくれて、今日は生姜焼きにすることにした。紫月の部屋にはキャベツがあるらしく、切ってくれるそうだ。


 割り勘で会計を済ませて、荷物を半分こして部屋に向かった。でも荷物はさりげなく軽い方を持たせてくれるし、並んで歩くときも紫月が道路側を歩いてくれているんだよな。


「紫月ってさあ、手馴れてるよね」

「なにが?」

「や、なんでもない。帰ろ」

「手馴れてるんじゃなくて、大事にしたいんだけど」

「なんでもないって言ったじゃん……」


 そんなことで嬉しそうにしないでほしい。私はまだ、なんにも彼女っぽいことできてないのに。

 まあまだ初日だし。伸びしろがあるんだ、きっと。

***

 紫月の部屋に着くと、一緒に晩ごはんとお弁当を作った。

 紫月が米を用意する間に、私は酢の物を作る。と言っても教わりながらだけど。

 まずはキュウリを塩揉みしてワカメを洗う。ミョウガとタコを切って、ほかの食材と一緒に酢の物の素へ漬けた。

 それを冷蔵庫に入れたら、私は生姜焼きを炒める。紫月はキャベツを千切りにして、残ったワカメを味噌汁にしたり、刺身にしたりしていた。居酒屋で刺身に添えてあるワカメみたいな感じだ。

 キャベツと生姜焼きを皿に盛っていたらごはんが炊けた。


 料理を運び終えると、向かい合って手を合わせた。


「焼いただけなのにおいしい!」

「だろ? 俺も疲れてるときに使うんだ。楽だよな」

「ふうん。紫月くらい料理ができるならなんでも手作りかと思ってた」

「んなことねえよ。なんでも使いようだろ」


 食べ終えたら、残ったおかずをそれぞれの弁当箱に詰めた。


「……美颯、今日は連絡くれてありがとう。明日からも、よろしく」

「う、うん。こちらこそ」

「送る」


 紫月は私の弁当箱を持って玄関に向かった。すぐ隣じゃん、とは思ったけど、黙って靴を履いた。そんな嬉しそうな顔をされたら断れないもの。


「おやすみ、紫月」

「うん、おやすみ、美颯」


 弁当箱を受け取った。

 指先が触れる。

 指先が触れる。紫月の手は弁当箱からなかなか離れない。


「紫月」

「……悪い、かっこ悪くて」

「いいよ、私も同じだから。あのさ、寝る前にまた連絡する」

「わかった。いや、俺からする」

「待ってるね」


 やっと互いに手を離して、それぞれの部屋に戻った。


 やばいな、明日会社でどんな顔をすればいいんだろう。マスクをしたほうがいいかもしれない。

 鏡の前で緩んだ頬をつねってみたけど、ちっとも締まらなかった。むしろ口元がまた緩みそうになる。
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