迷信の生贄花嫁、食べられると勘違いしたまま竜王陛下の溺愛が始まって戸惑ってます~食べるって物理的な意味ですよね?~
第35話 怒れる竜
「一体何ごとだ?」
ベッドから降りた公爵は、覚束ない足取りで窓辺へと向かう。
フィリーネもあとに続いて外の景色を確認した。
すると、大広間に隣接するバルコニーが崩れており、瓦礫が庭園に散乱していた。
瓦礫の山から少し離れた庭園には、見たこともない大きな黒い塊がある。
(あれは何でしょうか。月が雲に隠れてよく見えません)
大きな塊が暗がりの中でも動いているのは分かる。しかし、その正体はまるで見当もつかなかった。
フィリーネが首を傾げていたら、公爵が震えた声を絞り出す。
「あ、あのお方は間違いない。竜王陛下だ!」
「えっ!?」
フィリーネは黒い塊へ目を凝らす。
雲の間から月が顔を出した。月光に照らされた黒い塊が、はっきりとその輪郭を現す。
頭には二本の角、背中にはコウモリのような翼、先が尖った長い尻尾。
間違いなく、あれは竜だった。
「あの方がオルクール王国の君主、竜王陛下なのですね」
初めて竜を見たフィリーネは、その覇気に気圧された。
シドリウスも竜王陛下と同じ竜人だが、竜の姿はこれまで一度も見ていない。
竜とは、これほどまでに圧倒的な存在だったのだと改めて知った。
黒い竜が咆哮をあげる。
尻尾が鞭のようにしなれば、側にあった木々がいとも簡単になぎ倒されていく。