意地悪な副社長に狂うほど愛される
別れ
私はどうやって部屋まで帰ったのか、わからない。
気がつくと夜になっていて、雨の音で、ようやく外を見た。
「いないのか」
副社長の声がして顔をあげる。
同時に電気がついて、副社長と目が合った。
「どうした? 電気もつけないで」
副社長がキッチンを見た。
あ、そうだ。夕飯ーー
「外に食べに行く?」
私は首を横に振った。
「どうしたんだ」
副社長は私の横に座って肩をさすった。
「話があるんです」
「うん」
「私、やっぱり出て行きたいんです」
副社長は黙ったまま、私を見つめた。
その瞳に堪えられなくなり、反らす。
この人から家族を奪ってはいけないーー
本物の家族をこの人は持っているんだからーー
「それがキミの答えか?」
副社長が初めて私に見せる表情をしていた。
それは何処となく切ないような悔しいような表情だ。
「キミは1度も俺に好きだと言ってくれないんだね」
確かにそうだ。
私は副社長に正直な気持ちを1度もきちんと伝えていない。
心からの正直な気持ちをーー
「私の気持ちなんて、わかってるじゃないですか」
「キミから直接、聞きたかったんだ」
「……ごめんなさい」
「わかった」
副社長は、ため息まじりの声を出した。
「でも明日の社長の就任式には来てくれないか?」
「社長就任式?」
「ああ」
「だって、それは……」
「会長に呼ばれたんだ。祖父には逆らえないからね」
「でも私はもう社員じゃ」
「俺の招待客として来たらいい。目立ちたくないなら、マスクと帽子でも被って」
「でも……」
「待ってるから」
副社長は最後の望みを伝えるような優しい声で言った。
その日、私はゲストルームで、副社長は自分の寝室で寝た。
『最後の夜に一緒に寝るのは辛いから』
そう言われて私は結局、何も言えなかった。
荷物をトランクに詰め、すぐに出て行くことが出来るようにした。
まだ荷ほどきしていない段ボールはそのまま部屋に積まれている。
住む部屋を探さないとーー
翌日、起きると副社長の姿は既になかった。
段ボールをガムテープでふさいで、部屋の隅に置いた。
私は必要最低限のものをつめたトランクを持って僅かな時間、副社長と同棲した部屋を出た。
何カ所か不動産を回ったが仕事を持っていない私に紹介してくれるところはなかった。
「まずは仕事を探さないとダメか」
私はコンビニに入って求人誌をパラパラめくった。
とりあえず、今日はカプセルホテルか漫画喫茶に宿泊して、まずは仕事をアルバイトでも見つけないと。
そんなことを考えながらめくっていると、観光業特集というページがあった。
さまざまなお店がインバウンドの影響でオープンしているらしい。
キッチンとかなら英語が話せなくてもいけるかもしれない。
「観光業か」
私はそばに置いていたトランクを見つめた。
中古で買った、少しレトロなトランク。
いつか、旅行する為に初任給で購入したものだ。
旅行はまだ出来ていない。
ふと副社長の笑顔が浮かんだ。
それは私が初めて彼に会った日。
高校生の時。
私が御堂ツーリストに入ったきっかけ。
「副社長と旅行、行きたかったな」
って何考えてるんだ、私ーー
もう終わったことなのに。
気がつくと夜になっていて、雨の音で、ようやく外を見た。
「いないのか」
副社長の声がして顔をあげる。
同時に電気がついて、副社長と目が合った。
「どうした? 電気もつけないで」
副社長がキッチンを見た。
あ、そうだ。夕飯ーー
「外に食べに行く?」
私は首を横に振った。
「どうしたんだ」
副社長は私の横に座って肩をさすった。
「話があるんです」
「うん」
「私、やっぱり出て行きたいんです」
副社長は黙ったまま、私を見つめた。
その瞳に堪えられなくなり、反らす。
この人から家族を奪ってはいけないーー
本物の家族をこの人は持っているんだからーー
「それがキミの答えか?」
副社長が初めて私に見せる表情をしていた。
それは何処となく切ないような悔しいような表情だ。
「キミは1度も俺に好きだと言ってくれないんだね」
確かにそうだ。
私は副社長に正直な気持ちを1度もきちんと伝えていない。
心からの正直な気持ちをーー
「私の気持ちなんて、わかってるじゃないですか」
「キミから直接、聞きたかったんだ」
「……ごめんなさい」
「わかった」
副社長は、ため息まじりの声を出した。
「でも明日の社長の就任式には来てくれないか?」
「社長就任式?」
「ああ」
「だって、それは……」
「会長に呼ばれたんだ。祖父には逆らえないからね」
「でも私はもう社員じゃ」
「俺の招待客として来たらいい。目立ちたくないなら、マスクと帽子でも被って」
「でも……」
「待ってるから」
副社長は最後の望みを伝えるような優しい声で言った。
その日、私はゲストルームで、副社長は自分の寝室で寝た。
『最後の夜に一緒に寝るのは辛いから』
そう言われて私は結局、何も言えなかった。
荷物をトランクに詰め、すぐに出て行くことが出来るようにした。
まだ荷ほどきしていない段ボールはそのまま部屋に積まれている。
住む部屋を探さないとーー
翌日、起きると副社長の姿は既になかった。
段ボールをガムテープでふさいで、部屋の隅に置いた。
私は必要最低限のものをつめたトランクを持って僅かな時間、副社長と同棲した部屋を出た。
何カ所か不動産を回ったが仕事を持っていない私に紹介してくれるところはなかった。
「まずは仕事を探さないとダメか」
私はコンビニに入って求人誌をパラパラめくった。
とりあえず、今日はカプセルホテルか漫画喫茶に宿泊して、まずは仕事をアルバイトでも見つけないと。
そんなことを考えながらめくっていると、観光業特集というページがあった。
さまざまなお店がインバウンドの影響でオープンしているらしい。
キッチンとかなら英語が話せなくてもいけるかもしれない。
「観光業か」
私はそばに置いていたトランクを見つめた。
中古で買った、少しレトロなトランク。
いつか、旅行する為に初任給で購入したものだ。
旅行はまだ出来ていない。
ふと副社長の笑顔が浮かんだ。
それは私が初めて彼に会った日。
高校生の時。
私が御堂ツーリストに入ったきっかけ。
「副社長と旅行、行きたかったな」
って何考えてるんだ、私ーー
もう終わったことなのに。