意地悪な副社長に狂うほど愛される
直接対決
就任式が始まるまで、あと5分。
会場には大勢の社員たちが集まっていた。
俺は舞台袖から社員たちを見つめる。
「どうか、されましたか? 誰かお探しで?」
「いや」
「副社長、そろそろご準備を」
「ああ」
俺は舞台上に用意された椅子に座った。
しばらくして兄が現れる。
余裕しゃくしゃくといった笑みを携えていた。
「父さんは俺を社長にすると決めたらしい」
「そうらしいですね」
「なんだ、知ってたのか」
「まあ」
兄は眉間に皺を寄せたまま、俺を見つめた。
「何ですか?」
「悔しくないのか? あんなに社長になりたがっていたのに」
「もういいんですよ」
俺が真正面を向くと、セレモニーの開始を告げるように微かなBGMがなり始め、会場の照明が少しだけ落とされた。
司会が進行していく。
俺は客席から彼女を探したが、やはり姿はなかった。
思わずため息がもれた。
「では社長にお登壇していただきます」
父が舞台袖から社員たちに手を振りながら出てきた。
拍手に包まれている。
俺に一瞥すると、真ん中のマイクの前に立った。
「それでは次期社長の名前を現社長から発表いたします」
司会者の声で父が大きく頷いた。
「来月より私は会長に就任し、社長には長男の御堂頼を任命する」
会場は少しざわついたあと、遅れて拍手に包まれた。
父は兄の方を向き、兄は誇らしげに立ち上がり、父の隣りに向かった。
「待て」
しゃがれた低い声がして会長である祖父が舞台袖から現れた。
「か、会長!」
父は祖父を見ると驚いたように狼狽した。
祖父が来るとは思っていなかったのだ。
祖父はマイクを父から奪い取る。
「ついでに次期会長について話しておきたいと思う」
すると動揺していた父がジャケットを下に引っ張り、胸を張った。
「次期会長は御堂駿現副社長とする」
「何!?」
父は叫んで、俺を睨んだ。
俺だって、まさか自分が指名されるとは思っていない。
会場がざわついた。
「ど、どういうことですか! お義父さん! あ、いや、会長」
「どうもこうもない。お前は退任だ」
「そんな!」
父はパニック、兄は固まったまま動けないでいる。
「お前のせいだな!」
父は俺を指さして叫びながら近づいてきた。
「心配しなくても大丈夫ですよ」
俺はゆっくりと立ち上がり前に進んだ。
「会長、申し訳ございませんが断りさせていただきます」
「なぜだ」
ざわざわしていた会場内が俺たちのやり取りを聞き逃すまいと耳を澄ませている。
「僕は退職します」
「何!?」
「そうだ! お前は退職するんだ!」
「お前は黙ってろ!」
「で、でも! こいつは好きな女の為に会社や家族を捨てようとしているんです」
「ほう」
祖父は俺を見た。
「ええ。その通りですよ」
「お前がそんなことを」
その時だった。
「待ってください!」
彼女の声が会場に響き渡った。
フードを被った彼女が立ち上がって壇上に近づいてきた。
「誤解なんです! 副社長と私は何でもないんです。だから退職だなんて言わないでください!」
会場の注目を一気に浴びる彼女が全く動じず近づく。
「キミは?」
「私は……その、元社員というか……」
「僕が8年間、片想いしていた相手です」
俺がそう言うと彼女は驚いたようにこちらを見た。
「何!?」
「こ、こいつが駿をたぶらかした相手です!」
「会長の母校で出会ったんですよ」
「ほう、ではキミは私の後輩か」
「え、は、はい……」
「とにかく僕はもう父さんの言いなりにはなりたくないんです。会社にも縛られたくない。御堂家を出ようと思っています」
「ふんっ! 勝手に出て行け! お前なんか、御堂の名前がなかったら何にもできないんだ!」
「何もできないのは、あなたでしょ」
俺は突然、母の声がして驚いた。
どうやら前方の端にずっと座っていたようでスッと立ち上がると父を見つめた。
「あなたとは離婚します」
「なっ!」
「息子たちに会社を任せられるようになるまで待ったのよ」
「お、お前!」
これは驚いた。
「あなたは私の夫だから社長になっただけ。夫でなくなったら、ただの人ですよ」
「お前!」
父は今にも母に詰め寄っていきそうだったので俺は父の前に出た。
「こちら、離婚届です。私のは記載しています。あとは、あなたが書くだけ。もし拒否するのなら、あなたが長年、不倫していることを裁判所で争うことになるかしら」
父は祖父を見つめた。
祖父は怒りよりも呆れた目つきで父を見ていた。
「とにかく、こんな家族の恥を社員たちの前でこのまま見せ続けるなんて、情けないですよ」
「それもそうだな」
兄がようやく口を開いた。
「今後の話し合いを経て追って就任式を行います」
兄が社員たちにそう伝えると明らかに不服そうな声がざわざわと上がったが、俺たちは舞台上を後にした。
会場には大勢の社員たちが集まっていた。
俺は舞台袖から社員たちを見つめる。
「どうか、されましたか? 誰かお探しで?」
「いや」
「副社長、そろそろご準備を」
「ああ」
俺は舞台上に用意された椅子に座った。
しばらくして兄が現れる。
余裕しゃくしゃくといった笑みを携えていた。
「父さんは俺を社長にすると決めたらしい」
「そうらしいですね」
「なんだ、知ってたのか」
「まあ」
兄は眉間に皺を寄せたまま、俺を見つめた。
「何ですか?」
「悔しくないのか? あんなに社長になりたがっていたのに」
「もういいんですよ」
俺が真正面を向くと、セレモニーの開始を告げるように微かなBGMがなり始め、会場の照明が少しだけ落とされた。
司会が進行していく。
俺は客席から彼女を探したが、やはり姿はなかった。
思わずため息がもれた。
「では社長にお登壇していただきます」
父が舞台袖から社員たちに手を振りながら出てきた。
拍手に包まれている。
俺に一瞥すると、真ん中のマイクの前に立った。
「それでは次期社長の名前を現社長から発表いたします」
司会者の声で父が大きく頷いた。
「来月より私は会長に就任し、社長には長男の御堂頼を任命する」
会場は少しざわついたあと、遅れて拍手に包まれた。
父は兄の方を向き、兄は誇らしげに立ち上がり、父の隣りに向かった。
「待て」
しゃがれた低い声がして会長である祖父が舞台袖から現れた。
「か、会長!」
父は祖父を見ると驚いたように狼狽した。
祖父が来るとは思っていなかったのだ。
祖父はマイクを父から奪い取る。
「ついでに次期会長について話しておきたいと思う」
すると動揺していた父がジャケットを下に引っ張り、胸を張った。
「次期会長は御堂駿現副社長とする」
「何!?」
父は叫んで、俺を睨んだ。
俺だって、まさか自分が指名されるとは思っていない。
会場がざわついた。
「ど、どういうことですか! お義父さん! あ、いや、会長」
「どうもこうもない。お前は退任だ」
「そんな!」
父はパニック、兄は固まったまま動けないでいる。
「お前のせいだな!」
父は俺を指さして叫びながら近づいてきた。
「心配しなくても大丈夫ですよ」
俺はゆっくりと立ち上がり前に進んだ。
「会長、申し訳ございませんが断りさせていただきます」
「なぜだ」
ざわざわしていた会場内が俺たちのやり取りを聞き逃すまいと耳を澄ませている。
「僕は退職します」
「何!?」
「そうだ! お前は退職するんだ!」
「お前は黙ってろ!」
「で、でも! こいつは好きな女の為に会社や家族を捨てようとしているんです」
「ほう」
祖父は俺を見た。
「ええ。その通りですよ」
「お前がそんなことを」
その時だった。
「待ってください!」
彼女の声が会場に響き渡った。
フードを被った彼女が立ち上がって壇上に近づいてきた。
「誤解なんです! 副社長と私は何でもないんです。だから退職だなんて言わないでください!」
会場の注目を一気に浴びる彼女が全く動じず近づく。
「キミは?」
「私は……その、元社員というか……」
「僕が8年間、片想いしていた相手です」
俺がそう言うと彼女は驚いたようにこちらを見た。
「何!?」
「こ、こいつが駿をたぶらかした相手です!」
「会長の母校で出会ったんですよ」
「ほう、ではキミは私の後輩か」
「え、は、はい……」
「とにかく僕はもう父さんの言いなりにはなりたくないんです。会社にも縛られたくない。御堂家を出ようと思っています」
「ふんっ! 勝手に出て行け! お前なんか、御堂の名前がなかったら何にもできないんだ!」
「何もできないのは、あなたでしょ」
俺は突然、母の声がして驚いた。
どうやら前方の端にずっと座っていたようでスッと立ち上がると父を見つめた。
「あなたとは離婚します」
「なっ!」
「息子たちに会社を任せられるようになるまで待ったのよ」
「お、お前!」
これは驚いた。
「あなたは私の夫だから社長になっただけ。夫でなくなったら、ただの人ですよ」
「お前!」
父は今にも母に詰め寄っていきそうだったので俺は父の前に出た。
「こちら、離婚届です。私のは記載しています。あとは、あなたが書くだけ。もし拒否するのなら、あなたが長年、不倫していることを裁判所で争うことになるかしら」
父は祖父を見つめた。
祖父は怒りよりも呆れた目つきで父を見ていた。
「とにかく、こんな家族の恥を社員たちの前でこのまま見せ続けるなんて、情けないですよ」
「それもそうだな」
兄がようやく口を開いた。
「今後の話し合いを経て追って就任式を行います」
兄が社員たちにそう伝えると明らかに不服そうな声がざわざわと上がったが、俺たちは舞台上を後にした。