意地悪な副社長に狂うほど愛される
御堂家の人たちは後のことは運営側に任せて控え室に集められた。

「あなたも来てちょうだい」

副社長のお母さんにそう言われて私も参加することになった。

皆が席につき話し合いが始まろうとしたとき、遅れて入ってきたのは凜華さんとその執事だった。

「私たちも関係者でしょ」

凜華さんはそう言って私と副社長を交互に見た。
私は副社長の隣りに座った。
副社長が椅子をさりげなく移動させて私に近づき、手を掴んだ。
私は複雑な思いと同時にホッとしていた。

「駿は会社を辞めてどうする気だ」

副社長のお兄さんが話し出した。

「その女の為に会社と家を捨てるのか」
「ええ」

即答する副社長に驚いて思わず見上げた。

「副社長、聞いて下さい」
「ん?」
「私は天涯孤独でした。家族が欲しくても居ません。副社長は家族が居ない寂しさを知らないんです」

副社長は黙って聞いてくれた。

「だから私のせいで、あなたから家族を奪いたくありません」
「彼女の言うとおりだ! こんなこと馬鹿げてる」
「兄さんは俺がいないと会社経営が不安なんですか?」

副社長が挑戦的な目をお兄さんに向けた。

「なんだと!?」

椅子をひっくり返して立ち上がって叫んだ声に私はビクッとした。

「座れ!」

会長の声で部屋がしーんとなる。
お兄さんは副社長を睨み付けながら座った。

「頼はその短気を治さないと社長にはなれんぞ」
「お祖父様……」
「まあ、話を1つずつ整理していくしかないな。まずはお前だ!」

会長が指さしたのは社長だ。
社長はずっと肩を落として静かにしていたが、指さしをされて怯えていた。
私を脅していた時の社長は皆無だ。

「わ、わたしは何を……」
「娘の離婚届にサインしろ。今すぐだ」

会長の秘書が副社長のお母さんから離婚届を受け取り、胸からペンを取ると一緒に社長の前に置いた。
私はズキンと胸がいたんだ。

「これは、あなたには関係ないことよ」

私の思いを察したように副社長のお母さんが私に向かって言ってきたので驚いた。

「これはずっと前から決めていたことなの」

微笑まれた。
社長は悔しそうに顔を歪めて、サインをした。

「サインしたらお前は出て行け。もう御堂の人間ではない」

社長は会長の言う通り、出て行こうとした。

「待ってください」

副社長が呼び止め、社長が振り返った。

「彼女に謝って下さい」
「は?」
「あなたが今までしてきたこと、傷つけたこと、全て謝ってください」
「副社長、私は」

副社長の腕を引くが副社長はまっすぐ社長を見ていた。

「わ、悪かった」

社長はちらりとこちらを見た後、出て行った。

「まったく、あれで謝ったって言えるのかしら」
「私は十分です。ありがとうございます」

副社長を見ると少し呆れたような笑みを向けてきた。

「これで社長不在となったわけだ。さあ、駿、どうする」
「どうするって兄に譲りますよ」
「もう別に、そこのお嬢さんとお付き合いしても、問題はないのよ?」
「え?」

会長も副社長のお母さんも私と副社長を見て微笑んだ。
私はちらっと凜華さんに目線を送ってしまう。
凜華さんは正面を向いて無表情だ。

「あなたには私から謝るわ」
「駿さんのお母様が謝る必要はございません。私は用済みってことですね?」
「そ、それは」
「必要ないのでしたら、これで失礼いたします。しかし今後、御堂グループとの取引を考えないといけないかもしれませんね」
「それは、今回のこととは関係ないでしょう」

副社長が口を挟んだ。

「あら、あなたは辞めるのに、そんなことを言えるのかしら?」

そう言うと凜華さんは立ち上がって、出て行ってしまった。
執事が後を追う。


扉を閉め、凜華はため息をついた。

「あーつかれた」
「お嬢様」
「何?」
「僕がいます」
「え?」
「僕があなたをずっと守ります」

凜華は微笑んだ。

「やっと言ってくれた」
「え?」
「なんでもない」

凜華はスキップしながら廊下を歩いて行く。


「凜華さんのこと良いんでしょうか」
「彼女は他に好きな男がいるから、これで良かったんだ」
「え?」

副社長がすんなり言った言葉に驚いた。

「これで障害はなくなった。駿、お前は自由に恋愛していい」
「だそうだ」

副社長が私にいたずらっぽい笑みを浮かべたので私は顔が熱くなった。

「あなたが、そこまで大切に思う女性がいるとは思わなかったわ」
「その女性と結婚したいなら、それでいい。だが会社はお前が引き継げ」
「け、結婚!?」

予想だにしない単語が出てきて、私はひっくり返りそうだった。

「まあ、それは彼女の気持ちを聞かないといけませんから。後ほど2人で話し合いますよ」
「副社長!」

もう何が何だか。

「会社は兄に譲ります。兄は俺より会社を愛している。どうしても会社が欲しくてヒール役までやっていたんだから」
「いや、駿。俺の負けだよ」
「兄さん?」
「俺は経営者の器じゃない。父と一緒さ」
「そうだな、お前には能力はない」

厳しい言葉を会長が投げる。

「はい……」

お兄さんはうなだれていた。

「まあ、でも弟が支えるんだったら良いんじゃないのか?」
「だから僕は」
「これは会長命令だ!」
「俺からもお願いだ。しっかり社員たちの信頼を取り戻す。会社をよりよくする為になんだもする! だから手伝ってくれ」

お兄さんは副社長に土下座した。
これにはさすがに副社長も驚いている様子だ。

「やめてくださいよ」
「兄弟、仲良くしてちょうだいよ」

副社長はため息をついた。

「わかりましたよ、その代わり、僕の会社への出資はしてもらいますよ」
「お前の会社?」
「なるほど、それがあるから辞めるなんて言い出したのか」

会長はうなって副社長を見た。
その表情には誇らしさがにじみ出ていた。

「まったくお前は本当に抜かりないな」

会長は呆れたといった風にため息をついているが嬉しさは隠し切れていない。

「どうするんですか? 俺はこのまま会社から離れても構わない」
「いや、お前の言うとおりに出資する」

お兄さんが土下座したまま言った。

「だから協力してくれ」

副社長は立ち上がってお兄さんの元へ向かって腕を掴んだ。

「いつまでそうやってるんです。社長になるんでしょ」

顔を上げた副社長のお兄さんは涙を流していた。
これには副社長も面食らったようだ。

「わかりましたから。その代わり、あゆ美に何かしたら会社を潰しますから覚悟しといてくださいね」
「わ、わかったよ」

副社長の顔に私はぞっとし、名前を呼ばれたことにドキッとした。

「じゃあ、もう話し合いは終了でいいですか?」

そう言うと副社長は私の手を取った。

「彼女と2人で今後のことを話し合いたいので」

誰もがぽかんとしていた。
もちろん私もだ。

「いいわよ、言ったって聞かないんだから。後のことはこっちでやっておくわ」

副社長のお母さんが呆れた様に手を払うように振った。

「では。行くぞ」
「はい」

私は副社長に引っ張られてその場を後にした。
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