【完結】隣国のモフモフ騎士団長様、番ではない私でよろしいのですか?

その後の一幕


 あたたかな木漏れ日の中で、本を読む。
 穏やかで、大好きな、私の時間。

 そして、私たち『三人の』家族の時間。

「〜〜〜♪」

 この季節は、桜色に染まる景色が更に心を踊らせる。

 鼻歌がこぼれて、さわさわと揺れる葉や鳥たちの囀りと重なった。

「....まるで、子守り唄みたいだな」 

「え?」

 大きな桜の木の下に敷物を敷いて座る私の膝に、頭を預けて寝そべる夫・フェンリル様が、目を細めて言った。

 三角耳を機嫌良く立てて、尻尾の先はぴょこぴょこ楽しそうに動いている。

「ジャスミンの優しい声と自然の音が一緒に刻む音楽。子守り唄みたいで、とても心地いい」

「まぁ。ふふ」

 私は本を横に置いて、サラサラ指通りのいい髪と耳をそっと撫でる。

 気持ち良さそうに目を閉じて受け入れた彼は、殊更尻尾を揺らした。

 と、『ぽこん』とどこかで音がする。

「ん?お前もそう思うか?」

 彼がおろしていた瞼をあげて、嬉しそうに話しかける先ーー

 そこには、私の大きく膨らむお腹があった。

 ゴロリとうつ伏せに体勢を変えて、お腹のそばで声をかける彼の顔は、既に蕩けている。

 ぽこん、ぽこん。

「あら、また蹴ったわ。ふふふ。本当にお返事してるみたい」

「はは、きっとそうだ。なぁ、聞こえてるんだろう?お父様の声が。お前は特別耳がいいのかもしれないな。早く出ておいで。そして、お父様と遊んでくれ?」

 じんわり伝わる熱が、丸い曲線を撫でる。

「もう。気が早いわフェンリル様。もう少し、お待ち下さいね?」

「そうか?はは、そうだな。考えてみれば、お腹の中の子と会話できるこの時間も貴重だ。.....生まれたら、ジャスミンとこうして過ごす時間もしばらくお預けかもしれないしな」

「あ......」

 柔らかくて、少し乾いた唇が落ちてくる。

「愛してる、ジャスミン。.....お腹の子も」

 ーーこの世で一番大切な、俺の家族だ。

「ええ。私も」

 額と額を合わせて、お互いに囁きあった。

 新しい命を宿すお腹を、フェンリル様がふわりと包み込む。

 私たちは目いっぱいの幸せを噛み締めて、共に空を見上げた。

 桜の花吹雪が舞い散る風景は、空の澄み渡る青と薄紅が混ざり合って、とても美しかった。

「.....番ではない私で、よろしいのですか?」

 お腹に添えられる大きな手に、ゆっくりと手を重ねる。

 ピクリと動く耳がその声を拾って.....

 彼の唇が描く笑みが深まっていく。

 番として出会い.....
 番と知らず、再会を果たした二人は、

 運命を手繰り寄せた。


「.....俺は、君がいい」

 ーー君だから、愛しているんだ。


 それは、この先の彼らの人生に寄り添う、

 彼らだけの愛おしい『合言葉』ーー。

 
【完】
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