あと30日で、他人に戻るふたり

16日目 さすが、“いわくつき”

さすがに朝には、もう帰ってきていると思っていた。
寝室のドアを開ければ、ぐうたらとソファに寝ているもんだと信じていた。

────ところが。

今朝もまだ、大地さんは帰ってきていなかった。


「……いない、のか」

ぽつりとつぶやいて、キッチンでパンを取り出す。


『明日はサンドイッチがいいなー』って、昨日の朝言ってたのに。
買ってきたばかりのハムを、一度冷蔵庫から出して見つめる。

作る相手もいないのに、開けても意味ないか。
…なんて思って、そのハムをまた冷蔵庫へ戻した。


結局、パンはいつも通りにトーストしてバターを塗っただけの朝食。
コーヒーはひとりでは飲む気になれなくて、牛乳で済ませる。


────静かだ。

ソファの定位置に腰かけて、テレビをつけて朝食をとるだけなのに。

「おはよう」の挨拶がないだけで、こんなに違うんだと思う。


「……」


手に持ったカップを見つめる。


昨日まで、こんなこと考えたことなかったのに。
どうして今日は、こんなに気になるんだろう。


簡単に朝食を済ませて、食器を流しに置く。

お皿一枚とコップがひとつ。いつもなら、もうひとり分あるはずなのに。
それがないだけで、少しだけ手持ち無沙汰になる。


蛇口をひねって水を流したら、その音がやけに大きく響いてすぐに止めた。


なんとなく、そのままキッチンを見渡す。

何も変わっていないはずなのに。
少しだけ、広く感じる。

ひとりで使うには十分な広さのここは、今日は誰ともぶつからない。


時計を見ると、そろそろ準備しないといけない時間だった。

急いで洗面所に向かって、いつものように準備を始める。

歯磨きをして、顔を洗って、髪を整えて。

隣に誰もいないというだけで、こんなにも動きやすいのに。
それが、どうしてなのか落ち着かない。


鏡に映る自分を見て、すぐに目を逸らした。


準備を終えてすぐにリビングに戻ると、誰もいない室内にテレビの音だけが流れている。


着替えを済ませたら電気を消して、バッグを手に取る。

玄関で靴を履きながら、一瞬だけ手が止まった。


「……行ってきます」


言ってから、なんで口にしたんだろうと小さく息を吐く。

返事を期待してしまう自分が、ちょっと変だ。


そのままドアを開けて、外へ出た。




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