あと30日で、他人に戻るふたり

25日目 約束したじゃん

昨日のジメッとした雨が嘘みたいに、今日は晴れていた。


リビングでは大地さんがちょうど起きた直後なのか、ソファでぼんやりしているのが見えた。

「おはようございます」

「おはよう」

私から声をかけると、すぐに返事が来る。

まだソファにもたれて動かないので、私もいそいそと洗面所へ向かった。


────だめだ。
テーブルの端に置いてある、不動産会社のファイルが気になりすぎて。

もういっそあのファイルを鞄とかにしまってくれてるならいいのに、出しっぱなしにしているから余計にきつい。


洗面所で洗顔をして顔を上げると、浮かない表情の自分が鏡に映る。

どんな感情なのか分からない。

ひとつだけ分かっているのは、彼が出ていくまでもう、本当に日数が少ない。
それがじわじわと染み入るように侵食してきて、気を抜くと心が痛む。


スキンケアを終えてリビングに戻ると、ちょうど大地さんがキッチンでコーヒーを準備してくれていた。

「パン、焼きます?」

「うん」

気づけば朝はパン派に変わってしまった私が、自然な流れでパンをトースターに入れる。
その横で、彼がふともう一枚袋から取り出す。

「俺、今日は二枚食べようかな」

「いいですよ。せっかくだから焼き方教えます?」

「いや、焦がすから大丈夫」


……覚える気、ないな。

彼は頑なに拒否し、キッチンから出ていく。
その時さらっと、なんでもないようにつぶやいた。

「美月が焼いてくれるから、覚えなくても」


ひとり残ったキッチンで、彼が何気なく発した言葉を噛み締める。


大地さんは、分かってない。
もう私と過ごす時間が残り少ないことを。

もうこうしてふたりで朝ごはんを支度する日が、あまりないことを。


ちょっと寂しくなりながら、静かにトースターのスイッチを押した。



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