ほどけるくらい、愛して〜魔術師は異世界から来た運命のひとを逃がさない〜
前編
「今、手を付けている仕事が一段落するまで、しばらく来られない。でも全部終わったら、休みを取ろうと思ってる。……そのときに、君の一日を僕に欲しい」

 会計が終わったあと少し出てきて欲しいと言われた店の裏口でそう伝えられて、藤原《ふじわら》彩瑛《さえ》は驚いたように目を見開いた。
 向けられた琥珀色の瞳は今までに見たことのない熱を孕んでいる。
 心臓が早鐘を打って期待感を彩瑛にもたらした。けれどすぐに、誤解してはいけないと自分を戒める。
 勘違いしてしまいそうな視線。まるでデートの誘いとでも思ってしまいそうな言葉。だが、彼と彩瑛がそういう関係になるなんてありえない。
 だって彩瑛と彼は、あまりにも住む世界が違いすぎている。そのことは事実でしかないことなのに、胸の奥がずきりと痛んだ。
 彩瑛は街の食堂で働く、ただの一般人、ただの街娘だ。元々この世界ではない国から何の因果かやってきてしまって、運良く食堂の女将に拾われ、元の世界に帰らないままもうすぐ一年を迎えようとしている、なんて経歴はあるけれど、元の世界でだってごく普通の一般人だった。
 対して彼は元王族で、現王太子の兄。側妃の子だからと王族を抜けて今は貴族の位にいるけれど、それにしても|《公爵》という貴族の一番上の爵位を持っている。魔術に精通していて、この国で魔術師と言えば彼の名前が一番に上がるぐらいに有名な人だ。
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