配信終了後、幼馴染実況者の本性が悪すぎる

凪と楓花


週明け。

私は一人で登校していた。

朝、凪から一件メッセージが届いてた。

『今日は学校、先に行け』

届いていたのはたったそれだけ。

休日――凪は、私に会ってくれなかった。

「話がしたい」って何度もメッセージを送った。でも、既読はつくけど返信はなくて、電話もでない。家に行っても、会ってはくれなかった。

おばあちゃんも、困った顔で、

『凪ったらご飯もあまり食べなくて……どうしたのかしらねぇ』

そう言っていた。

凪がそうなるのも当然だと思う。

SNSを開けば、

《ナギは性格作ってた。裏ではフウに暴言吐いてた》
《優しいって思ってたのに……ショック》
《フウ、ナギに裏で色々言われてきてたのかな?可哀想》

そんな風に凪を非難するコメントばかりが溢れてた。

それだけじゃない。
配信後の私達の会話が切り抜かれて拡散されていた。

しかも、その切り抜き方が、
『足引っ張ってた』『下手くそ』とか、そんな言葉だけが強調されていて、
誤解を招くような悪意あるものばかりだった。

それが余計に炎上を加速させた。

……凪も、きっとこの投稿を見ているはず。

そう思うと、息が苦しくなった。

――あの時。

私がちゃんと配信が終わったことを確認していれば。

マウスの調子が悪いことにちゃんと目を向けていれば。

そもそも。凪を偽らせなければ。

後悔ばかりが募る。
改めて、自分が取り返しのつかないことをしてしまったことに気づく。

凪を守りたくて、ずっとコメントをチェックしてきた。

なのに。

結局。

凪の心を壊したのは――私だった。




教室に入ると、
この前なぎふぅチャンネルの話をしていたクラスメイトの子たちが、また私の席の少し後ろで会話をしていた。

「なぎふぅ見た?」

「あー……みた。やばかったよね……配信後のナギ」

「口調も声のトーンも別人だったよねぇ。言い方もキツかったし。フウちゃん、ずっとああやって配信終わるたび言われてきたのかな?」

「だとしたら、怖いよね。配信では、穏やかで優しげだった分、あの違いは正直……びっくりした」

「ね〜。てかさ。あのナギの口調聞く感じ、やっぱりナギって早瀬くんなんじゃって思っちゃった」

その、言葉に心臓が跳ねた。

「えー……でもそんなことある?」

「あるかもよ?声、そっくりだし!
そもそも別人だってなったのは、口調とか雰囲気が違うよねってなったからだし。
あっ、そうだ」

――その瞬間。

視線がこちらを向く気配がした。

「佐倉さん」

名前を呼ばれて、びくりと肩が揺れた。

ゆっくりと振り向くと、
ふたり分の眼差しが真っ直ぐ私に向けられていた。

「佐倉さんって、朝、よく早瀬くんと登校してるよね?」

「……っ」

「早瀬くんってどんな人?怖い感じ?てか、前々から気になってたんだけど、
佐倉さんと早瀬くんって付き合ってるの?」

「……、」

質問が次から次へと飛んでくる。

その瞳にあるのは、悪意ではなく、
探るような視線と興味。

ただ、それだけのはずなのに。

喉を締められたように声が詰まった。

「……えっ、と……」

「ん?」

「……っ」

どうにか声を発しようとするけど、
視線に圧倒されて言葉が出てこない。

指先が冷たくなっていく。

どうしよう。ちゃんと話さなきゃ。

そう思えば思うほど、言葉が詰まる。

「……佐倉さん?」

「……っ、」

促されるように名前を呼ばれ、思わず俯く。

上履きをみつめながら、
どうにか言葉を落とした。

「…………ないです……」

「え?なんて?」

「……付き合って、ないです……」

ボソボソと、かろうじて相手が聞こえる声で返事をする。

すると。

「……へぇ、そうなんだ。
ていうか、早瀬くんってどんな人?佐倉さんにも冷めてる感じ?てか、なんで一緒に登校してるの?」

「……あ」

またも、次から次へと飛んでくる質問。

ドクドクと心臓がうるさく動く。

“凪は、口調と態度は悪いけど優しい人です。
凪とは、幼馴染です。小学生の頃から同じクラスで、自然と隣にいた存在です。”

心の中では言えるのに。

いざ、相手を目の前に言葉にしようとすると、

「……っ」

喉がつまった。

「――ねぇ、ミク。佐倉さん、困ってるみたいだし、もういいんじゃない?聞かなくて」

黙る私に、
隣で聞いていたその子の友達が言った。

「なんか、今のこの状況って見方によっちゃ、ウチらが佐倉さんに言いたくないこと無理やり聞き出そうとしてるように見えない?」

「え?!そう見える?!」

「うん。佐倉さん、表情硬すぎてやばいし、
状況だけ切り取ったらウチら悪者に見えそう」

「えー……別に普通のこと聞いてるだけなのに?」

「それでも。そんなの周りは知らないし」

「……っ」

そんな会話を、目の前で繰り広げられても、
私は言葉を発することが出来ない。

「ごめんね。佐倉さん、急に。」

「……いえ……」

「ミク、ホームルーム始まる前にトイレいこー」

「おっけー」

そう言って、その子達は私の横を通りすぎ、
ドアに向かって歩いていく。

その時、

「佐倉さんって、暗いよねー。笑わないし、話しかけてもなかなか返事してくれないし、声小さいし」

「けど、早瀬君とは普通に笑って話してるところ見たことあるよ」

「えっ、じゃあ単に人見知りなだけ?」

「そうじゃない?」

「それか、男好き?」

背後でそんな会話が聞こえた。
抑えた声で話されているのに、私の耳にはしっかり届く。

「……っ」

耳から入ってくる言葉が、胸の奥を針のようにチクチク刺していった。
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