似た者同士の契約婚 ~結婚しないと宣言した日に出会った相手は、不眠の心臓外科医でした~
1偶然の再会
 洋介に婚姻届を突きつけられた翌日、美空はぼんやりとベッドの上から動けずにいた。

『結婚なんてしないっ……!』

 啖呵を切った美空は、その後洋介の反応を待たずにホテルを後にしていた。

 そのまま家に帰ってすぐに寝たはずなのに、身体が重い。

(今日が休みで良かった……)

 恋人の浮気発覚から別れまでの一ヶ月。それはもう怒涛の勢いで過ぎていった。
 だから身体も心も力が抜けてしまったのかもしれない。

(四年も付き合ったんだもの。そりゃあ最近は全然デートしなかったし、すれ違っている自覚はあったけど。……もっと綺麗に別れられると思ったのにな。浮気だもんなー)

 ため息ばかりが出ていたが、洋介のせいで貴重な休日が消費されていくことに、徐々に苛立ちが芽生え始めた。

「浮気するような男と別れられたんだから、良かったのよ! うん、そうだ!」

 美空は重たい身体を振り切って気合いで立ち上がると、拳を突き上げる。
 そのまま目に止まった二人のツーショット写真を、コルクボードから外してゴミ箱に突っ込む。

「せっかくだし、断捨離でもしよう」

 そうして元彼との思い出の品をどんどんとゴミ箱に放り込んだ。



 洋介と出会ったのは、美空が総合型フィットネスクラブ『ゼスティア・スポーツクラブ』にインストラクターとして就職してすぐのことだった。
 理学療法士を目指して資格も取得したものの、就活がうまくず悩んでいた美空にとってゼスティア・スポーツクラブは救いの手だった。

(うまく出来るか分からないけれど、頑張ろう)

 拾ってくれたゼスティアの役に立ちたい。
 そんな気合いと希望を胸に今の支店に配属された時、指導係となったのが一つ年上の洋介だった。
 
『なんでも聞いて。この仕事、体力勝負だからどんどん鍛えていけよ』

 大学時代ラグビーで鍛えたという彼の無駄のない引き締まった身体は、まさにインストラクターにふさわしい体格だった。
 彼はゼスティアグループの御曹司だったが、それを鼻にかけることもなく、仕事に誰よりも熱心だった。
 お客様への対応は柔らかく、ユーモアもあって、二年目ながらたくさんの固定客がついていた。

(先輩はすごいな。追いつけるように頑張ろう!)
 
 美空が熱心に質問をすると、洋介は嫌な顔一つせずなんでも教えてくれた。
 指導のために二人で過ごす時間が増え、自然と仲も深まっていった。

『美空のこと、放っておけないんだ』

 そう言われて付き合うまでに時間はかからなかった。



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