御曹司社長は恋に臆病な契約妻を極上の愛で囲う

プロローグ

「――新郎、あなたは健やかなる時も病める時も、この者を妻として愛し敬い慈しむ事を誓いますか?」

 厳かな空気の中、神父の落ち着いた声が響く。
 豪華すぎるチャペルのステンドグラスからは、まさに選ばれし者だけを照らし出すかのように、眩い光が差し込んでいた。

「誓います」

 揺るぎのない自信に満ち溢れた声が響き渡り、小夜莉(さより)は聖書にのせていた左手をわずかに震わせる。
 今小夜莉の隣に立ち、同じように聖書に手をのせているのは、これから夫となる男性だ。
 全ての地位と名誉と財力を手にして、権力のヒエラルキーのトップに君臨し続ける御子柴(みこしば)グループの御曹司・御子柴雅人(まさと)。小夜莉はこれから雅人と夫婦になる。でもそこに愛や恋などといわれる甘い言葉はひとつもない。ただ存在するのは、紙切れ一枚の契約だけ。

(そう、私たちはお互いの目的を達成するまでの契約夫婦。利害一致の契約婚という、ただそれだけの関係……)

 小さく息をついた小夜莉の指先に、わずかに雅人の指先が触れる。

「それでは誓いのキスを――」

 ビクッと肩を揺らした小夜莉の前で、神父がにこやかに促した。
 顔を俯かせたまま雅人と向き合った小夜莉は、持ち上げられたベールの先に見えた瞳にドクンと心を動揺させる。小夜莉を見つめる雅人の深い瞳の色に、なにか意味はあるのだろうか。

(勘違いしてはダメよ。これは演技なんだもの……)

 小夜莉は自分にそう言い聞かせると、戸惑う唇をキュッと結んだのだ。
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