御曹司社長は恋に臆病な契約妻を極上の愛で囲う

さらされた悪意

「神崎君! ちょっと!」

 昼過ぎ、研究室内に所長の声が響く。小夜莉は慌てて立ち上がると、所長のデスクの前に寄った。

「この分析を今日中に頼む」

 所長は威圧的にそう言うと、小夜莉に分厚いファイルを手渡した。

「今日中ですか?」

 あまりに膨大な量にさすがの小夜莉も一瞬戸惑いながら顔を上げる。それも所長は有無を言わさぬ様子で冷たい視線を向けた。

「わかりました」

 小夜莉はやや小さく息をつくと、頭を下げて自分のデスクに戻る。
 ここ数日、所長からのデータ分析の依頼が続いている。特に今日渡された内容は量がいつもの倍以上だ。自分の研究もあるのに、これではきっと今日は残業をしなければ終わらないだろう。

(雅人さんに今日は残業になるって連絡しといた方がいいよね?)

 小夜莉はふと今朝の雅人との会話を思い出す。
 昨夜自分の気持ちを自覚してしまった小夜莉は、今朝雅人と顔を合わせるのが気まずくてたまらなかったのだが、雅人は意外にも普通だった。いつも通り『行ってきます』と優しく笑顔を向けられ、小夜莉は頬を熱くしながら『いってらっしゃい』と小さく言った。
 でもそのあと、急に雅人がまじめな顔を見せたのだ。そして『残業する日は必ず知らせて欲しい。場合によっては司を向かわせるから』と言われたのだ。
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