追放された侯爵令嬢の幸せと、彼女を捨てた者たちの末路
第14話 妙に品のある女だ【将軍視点】
数日が経った。
【セラ】と名乗る女は俺の屋敷での生活に少しずつ馴染んでいる――ように見えた。
だが、どうにも気にかかる。
(あの女、妙に……品があるな)
鍋を洗っている背中を、ふと目にしただけでわかる。
あの所作に立ち姿。歩く時の重心の置き方に言葉の抑揚。
全部が、明らかに【貴族階級】の育ちだ。
もっと言えば、上流中の上流――侯爵、いや、それ以上かもしれん。
だが、本人は少し引きつった笑顔で言った。
「えっと……旅の途中、です」
女はそれしか言わない。姓も言わない。
(わざと名を隠している……いや、もしかしたら名乗れない事情があるのか?)
ああいうタイプは、下手に問い詰めると黙り込む。
黙るというのは、自分を守るための術。
過去に何があったかは知らんが、追われる理由があるのだろう。
「……サーシャ、その子が使っていた鍋なんだが火の通りが甘い。もう一度やり直させろ」
俺の言葉に、サーシャが軽く頭を下げ、セラの方へ向かっていく。
少し離れたところから、セラの反応を見ていた。
「わ……っ、すみません、すぐやり直します」
慌てて鍋を手に取り直し、真剣な顔で再び火を通す彼女。
だが、その姿に“投げやりも焦りも全くない。
真面目で、素直で、何より――誇りを捨てきれていない。
(……あの反応はただの使用人じゃ出ない)
落ちぶれた人間は、大抵どこかが擦り切れてる。俺は何度もそのような人間たちを見てきた。
媚びるか、卑屈になるか、達観したように無気力になるか。
だがセラは、誇りを守りながらも、必死に今お世話になっているこの場所で役目を果たそうとしている。
(……根っこが折れてねぇ)
それが、妙に――引っかかって仕方がない。
▽ ▽ ▽
夜の執務室。
報告書に目を通しながらふと窓の外を見ると、中庭の掃除をしているセラの姿が目に入った。
月明かりの下、黙々と落ち葉を集める横顔。
物音を立てず、静かに仕事をこなすその様はまるで貴族様に雇われてる庭師のようにも見える。
(……やっぱり、普通じゃない)
俺は椅子にもたれながら、静かに目を細める。
セラーーあの女は、きっと何かを隠している。
ただの旅人でも、ただの庶民でもない。
だが、隠している理由はきっと――自分の身を守るため。
俺は、自分の過去を誰にも話していない。
平民から将軍にまで成り上がるには、いくつもの正しくない事もしてきた。
だからこそ、他人の【過去】を暴く趣味はない。
だが、それでも気になってしまう。
(……放っておけねぇな)
その正体にではない。
その姿勢に、だ。
折れず、腐らず、誰にも媚びず。
それでいて、今の自分を受け入れようと足掻いているかのように。
……あんなの、嫌いになれるわけがねぇだろ。
執務室を出て廊下に立つ。扉を開けた先、中庭ではまだセラが箒を動かしていた。
「セラ」
「っ!」
「……無理すんな。今日はもう休め」
不意にかけた声に、彼女は驚いてこちらを振り向いた。
「将軍……様」
「その箒、俺が引き取る。あとは俺がやるからお前は先に休め」
「え、で、でも、これは私がやる仕事で……」
「――命令だ」
「……はい」
寂しそうにしながら小さく頭を下げたその姿に、俺は妙に胸がざわついた。
ただ、一つの想いが頭をよぎる。
(あいつは、きっと――誰かに捨てられたんだろうな)
それでもまだ、人を信じる目をしている。
妙に品のある女であり、そして――妙に、目が離せなくて困る。そのように感じてしまった。
【セラ】と名乗る女は俺の屋敷での生活に少しずつ馴染んでいる――ように見えた。
だが、どうにも気にかかる。
(あの女、妙に……品があるな)
鍋を洗っている背中を、ふと目にしただけでわかる。
あの所作に立ち姿。歩く時の重心の置き方に言葉の抑揚。
全部が、明らかに【貴族階級】の育ちだ。
もっと言えば、上流中の上流――侯爵、いや、それ以上かもしれん。
だが、本人は少し引きつった笑顔で言った。
「えっと……旅の途中、です」
女はそれしか言わない。姓も言わない。
(わざと名を隠している……いや、もしかしたら名乗れない事情があるのか?)
ああいうタイプは、下手に問い詰めると黙り込む。
黙るというのは、自分を守るための術。
過去に何があったかは知らんが、追われる理由があるのだろう。
「……サーシャ、その子が使っていた鍋なんだが火の通りが甘い。もう一度やり直させろ」
俺の言葉に、サーシャが軽く頭を下げ、セラの方へ向かっていく。
少し離れたところから、セラの反応を見ていた。
「わ……っ、すみません、すぐやり直します」
慌てて鍋を手に取り直し、真剣な顔で再び火を通す彼女。
だが、その姿に“投げやりも焦りも全くない。
真面目で、素直で、何より――誇りを捨てきれていない。
(……あの反応はただの使用人じゃ出ない)
落ちぶれた人間は、大抵どこかが擦り切れてる。俺は何度もそのような人間たちを見てきた。
媚びるか、卑屈になるか、達観したように無気力になるか。
だがセラは、誇りを守りながらも、必死に今お世話になっているこの場所で役目を果たそうとしている。
(……根っこが折れてねぇ)
それが、妙に――引っかかって仕方がない。
▽ ▽ ▽
夜の執務室。
報告書に目を通しながらふと窓の外を見ると、中庭の掃除をしているセラの姿が目に入った。
月明かりの下、黙々と落ち葉を集める横顔。
物音を立てず、静かに仕事をこなすその様はまるで貴族様に雇われてる庭師のようにも見える。
(……やっぱり、普通じゃない)
俺は椅子にもたれながら、静かに目を細める。
セラーーあの女は、きっと何かを隠している。
ただの旅人でも、ただの庶民でもない。
だが、隠している理由はきっと――自分の身を守るため。
俺は、自分の過去を誰にも話していない。
平民から将軍にまで成り上がるには、いくつもの正しくない事もしてきた。
だからこそ、他人の【過去】を暴く趣味はない。
だが、それでも気になってしまう。
(……放っておけねぇな)
その正体にではない。
その姿勢に、だ。
折れず、腐らず、誰にも媚びず。
それでいて、今の自分を受け入れようと足掻いているかのように。
……あんなの、嫌いになれるわけがねぇだろ。
執務室を出て廊下に立つ。扉を開けた先、中庭ではまだセラが箒を動かしていた。
「セラ」
「っ!」
「……無理すんな。今日はもう休め」
不意にかけた声に、彼女は驚いてこちらを振り向いた。
「将軍……様」
「その箒、俺が引き取る。あとは俺がやるからお前は先に休め」
「え、で、でも、これは私がやる仕事で……」
「――命令だ」
「……はい」
寂しそうにしながら小さく頭を下げたその姿に、俺は妙に胸がざわついた。
ただ、一つの想いが頭をよぎる。
(あいつは、きっと――誰かに捨てられたんだろうな)
それでもまだ、人を信じる目をしている。
妙に品のある女であり、そして――妙に、目が離せなくて困る。そのように感じてしまった。