愛するあなたを殺させないため、死に戻った私はこの恋を捨てると決めた

どうしたって捨てられない想い

 手のひらに感じる、ほんの少しだけ速い鼓動。ロジェリオが確かに生きていることを実感して、エリシアは深い息を吐いた。
 未だに止まることのない涙を、ロジェリオの手が優しく拭う。
「俺は、リオと呼ばれていたんだな」
 吐息まじりにロジェリオが囁く。エリシアは、黙ってうなずいた。
「それならきっと、俺はきみのことを『シア』と呼んだだろうな。俺だけが呼ぶ、きみの名だ」
 共に過ごした未来を知らないはずなのに、彼は同じ愛称でエリシアを呼ぶ。それが嬉しくて、瞳からは新たな涙がこぼれ落ちていった。
 しばらくロジェリオの腕に包まれているうちに少しずつ落ち着きを取り戻したエリシアは、彼の腕の中から出て、姿勢を正して座り直した。
 エリシアの知る恐ろしい未来を、ちゃんと伝えなければならない。
「毒を盛ったのは、私の……弟か、執事――そのどちらかです。『彼』は私と愛し合っていると勘違いをして、あなたの手から救い出すと言って、私をどこかに連れて行こうと……」
 掴まれた腕の痛みも、向けられた笑みが気持ち悪かったことも覚えている。なのに、顔だけが思い出せない。
 なんとか思い出せればいいのにと頭を抱えるエリシアの肩を、ロジェリオがそっと抱いてくれた。
「無理に思い出さなくてもいい。きっと恐怖から身を守るために、きみの心があえて忘れさせているに違いないから」
「でも、私が覚えていれば……。そうしたら、止められるかもしれないのに」
「そいつは俺を殺しただけでなく、きみを襲おうとした。そうだろう?」
 ロジェリオの問いに、エリシアは唇を噛んでうつむいた。人を殺しておいて満面の笑みを浮かべていたあの男は、エリシアを攫って凌辱するつもりだった。ねっとりとした視線を向けられたことを思い出すだけで、吐き気を催す。
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