政略結婚ですが、クールな旦那様の溺愛が始まりました
プロローグ
「こんなことなら、さっさと後継ぎを作った方がよかったか」
静かな部屋に、御門慧の言葉が落ちていく。その声にはまるで温度がなく、彼の妻であるすみれはドキリとした。
怖い……とは、たぶん少しだけ違う。
けれど、真意の読めない慧の双眸がいっそう冷たく感じ、すみれに不安を与えた。
クイーンサイズのベッドは、彼が毎晩使っているものだけれど……。すみれは、夫からこんな風に組み敷かれたことはない。
これまでに一度も……。ただの一度も、すみれがこのベッドを使ったことはなかった。
「そうすれば……」
そこまで言いかけた慧が口を閉じ、代わりとばかりに息を小さく吐いた。
程なくして、彼が目を伏せる。そして、ゆっくりと端整な顔が近づいてきた。
キスをしたのは結婚式で、一度だけ。それも、頬に触れるだけのものだった。
どうして……とすみれが問いかける前に、慧によって唇が塞がれる。
ファーストキスは、恐らく二秒ほど。
初めて触れた彼の唇は、とても冷たかった。まるで、自分たちの夫婦関係のように……。
「慧さ――」
「黙って」
声があまりにも冷たくて、すみれは二の句を継げなくなる。そこから感じる静かな怒りに、すみれの肩が小さく強張った。
それなのに、眉をひそめている慧が今にも泣きそうに見えるなんて……。そんなものは錯覚だとわかっているが、彼がこんな顔をする理由が知りたい。
しかし、それは叶わなかった。
二度目のキスがすぐに訪れ、すみれの唇が冷たい感触に塞がれたからだ。
唇を力強く押しつけられた口づけには、甘さも優しさもない。愛などない、と言わんばかりのやり方に思えた。
一方で、すみれの頬に添えられた骨ばった手からは、どこか優しさを感じる。
思い上がりだとわかっているが、期待してしまいそうになる。もしかしたら、慧も自分を好きなのではないか……と。
そんなことはありえない。そうわかっているのに、単純な心が勝手にドキドキした。
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