転生したらひとりぼっちだった私、最強国の冷徹大公に拾われる~不愛想な最強保護者のもとで、稀代の才能が花開きました~
プロローグ 不思議な夢
いつの頃からだろう。よく見る夢がある。
笑顔が素敵な美しい女性と、たれ目で優しい雰囲気の男性が私に手を振っている。
ふたりは黄金色の丘に立っていて、私は彼らに近づくために全力で走るのだ。私が近づくと、女性は目を細めて両手を広げる。遠慮なくその胸に飛び込むと、ふんわりと薬草の香りが鼻を掠めた。
心地よい香りにうっとりとしていると、男性が女性の腕から私を抱き上げて、愛おしそうに頬を寄せる。
くすぐったいからやめて! そんな仕草をすると、男性は相好を崩して瞳を輝かせた。
その夢には、音がない。
ふたりはなにかを言っているようだけれど、私の耳には届かない。でも、彼らから滲み出る優しさは、私を虐げようとするものではなかったので、安心して身を任せることができた。
私たちは、黄金色の丘で敷物を広げピクニックをしていた。すると、辺りが突然暗くなる。
夢の終わりはいつもそう。女性と男性の笑顔が遠くなり、やがて世界が闇に包まれる。
待って、行かないで!
叫びながら手を伸ばすけれど、それが叶わないことは知っていた。
これは、私が渇望する愛情の幻想。望んでも得られない幸せな家庭の情景が、夢となって表れたものだ。
……目を覚ますと、夜明けの薄暗い闇が伸ばした手を染めている。
ゆっくりと手を下ろすと、私はふうと息を吐き、体を起こし支度を始めた。
王宮厨房の朝は早く、毎日、朝日が昇る前に活動を開始する。王族の方々はまだ夢の中だけど、使用人は食材のカットや仕込みの仕事で忙しいのだ。
私も王宮厨房で働くひとりである。
名前はネリー、年は九歳。
どこにでもいるただの平民で、祖母のアンヌと一緒に下町で暮らしていた。厨房での仕事は、祖母が元王宮侍女だった伝手で手に入れたものだった。
しかし四年前、祖母は病で亡くなってしまった。しかも、身内だと信じていた彼女は、亡くなる前に私と血縁ではないと語った。驚愕する私の前で、祖母は申し訳なさそうな表情をして謝った。
その時の祖母が、どんな気持ちだったかはわからない。でも私は、彼女にとても感謝している。生活が苦しい中、子どもを育てるのは楽じゃない。血縁もない子どもなんて、お荷物もいいところだ。
それなのに、九年も面倒を見てくれた。九年も生かしてくれたのだ。
祖母には感謝してもしきれない。孤児だったと知っても、ちっとも悲しくないくらいには、たくさんの愛情をもらっていたと思う。
「じゃあ、行ってくるね。アンヌおばあちゃん。うん、今日も元気だよ!」
祖母が使っていた寝台に向かって私は声をかける。
生きていた頃も、亡くなってからも。
彼女はいつも私の体調を気にかけてくれたから、毎朝報告するのが日課になっていたのだ。
そうして私は、誰もいない部屋に背を向けて、明けの明星が輝く中を颯爽と走り出した。
笑顔が素敵な美しい女性と、たれ目で優しい雰囲気の男性が私に手を振っている。
ふたりは黄金色の丘に立っていて、私は彼らに近づくために全力で走るのだ。私が近づくと、女性は目を細めて両手を広げる。遠慮なくその胸に飛び込むと、ふんわりと薬草の香りが鼻を掠めた。
心地よい香りにうっとりとしていると、男性が女性の腕から私を抱き上げて、愛おしそうに頬を寄せる。
くすぐったいからやめて! そんな仕草をすると、男性は相好を崩して瞳を輝かせた。
その夢には、音がない。
ふたりはなにかを言っているようだけれど、私の耳には届かない。でも、彼らから滲み出る優しさは、私を虐げようとするものではなかったので、安心して身を任せることができた。
私たちは、黄金色の丘で敷物を広げピクニックをしていた。すると、辺りが突然暗くなる。
夢の終わりはいつもそう。女性と男性の笑顔が遠くなり、やがて世界が闇に包まれる。
待って、行かないで!
叫びながら手を伸ばすけれど、それが叶わないことは知っていた。
これは、私が渇望する愛情の幻想。望んでも得られない幸せな家庭の情景が、夢となって表れたものだ。
……目を覚ますと、夜明けの薄暗い闇が伸ばした手を染めている。
ゆっくりと手を下ろすと、私はふうと息を吐き、体を起こし支度を始めた。
王宮厨房の朝は早く、毎日、朝日が昇る前に活動を開始する。王族の方々はまだ夢の中だけど、使用人は食材のカットや仕込みの仕事で忙しいのだ。
私も王宮厨房で働くひとりである。
名前はネリー、年は九歳。
どこにでもいるただの平民で、祖母のアンヌと一緒に下町で暮らしていた。厨房での仕事は、祖母が元王宮侍女だった伝手で手に入れたものだった。
しかし四年前、祖母は病で亡くなってしまった。しかも、身内だと信じていた彼女は、亡くなる前に私と血縁ではないと語った。驚愕する私の前で、祖母は申し訳なさそうな表情をして謝った。
その時の祖母が、どんな気持ちだったかはわからない。でも私は、彼女にとても感謝している。生活が苦しい中、子どもを育てるのは楽じゃない。血縁もない子どもなんて、お荷物もいいところだ。
それなのに、九年も面倒を見てくれた。九年も生かしてくれたのだ。
祖母には感謝してもしきれない。孤児だったと知っても、ちっとも悲しくないくらいには、たくさんの愛情をもらっていたと思う。
「じゃあ、行ってくるね。アンヌおばあちゃん。うん、今日も元気だよ!」
祖母が使っていた寝台に向かって私は声をかける。
生きていた頃も、亡くなってからも。
彼女はいつも私の体調を気にかけてくれたから、毎朝報告するのが日課になっていたのだ。
そうして私は、誰もいない部屋に背を向けて、明けの明星が輝く中を颯爽と走り出した。
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