冷徹なエリート社長はセフレな私を一途に愛して孕ませたい

恭司side

 酔いつぶれた恭司は夢を見ていた。

『ただいま。具合があんまり良くないんだろう? 今から飯作ってやるから待っててくれ』

 マンションに帰って玄関を開けると、待っているだろう美桜に声をかける。
 恭司はコートを脱いで、堅苦しいネクタイを長い指で緩めると、黒髪をかき上げた。
 美桜が黒猫ミオを抱きしめながら玄関先に姿を現すと、伏し目がちになりながら話しかけてくる。

『お帰りなさい、恭司さん。お話があります』

『ああ、問題があるって言っていたな。なんだ?』

 すると、美桜がポツポツと口を開く。

『実家に帰ろうと思うんです』

『言っただろう? 帰れる家があるんなら、帰ったら良いって』

『その……』

 美桜が恭司のことを真っすぐに見据えてくる。

『もうここに来るのはやめようと思うんです』

 恭司の漆黒の瞳が波のように揺れ動く。

『もう恭司さんと会うのはやめようって、そう思ってるんです』

 美桜が言っている言葉の意味が頭の中に入ってはくるものの、理解できない。というよりも、理解したくなくて拒絶していた。
 恭司は、震える手指を落ち着けるべく、ぎゅっと握った。唇が戦慄く。喉がカラカラに渇いて発声に時間がかかったが、なんとか言葉を紡ぐことができた。

『……ミオの世話はどうするんだよ?』

『ご自身で世話をするか、新しく世話係を探すか……縁談相手の女性にお願いしてください』

『縁談相手……?』

『はい、昨日、出張だって話していたけど、本当は京都で他の女性と会っていらしたんですよね?』

 美桜の黒い瞳に底が見えなくて、恭司はたじろいだ。
 これまでいかなる場面でも動じたことがないのに、彼女のことになると、まるで自分が自分でなくなるかのように、感情をどうにもできなくなる。

『あれは……誤解だ』

 すると、美桜が首をふるふると横に振った。

『はい、私は大丈夫ですから』

 恭司は安堵する。
 
(良かった、おかしな誤解をされたわけじゃない)

 緊張がほぐれたと思った瞬間。

『恭司さん……いいえ、御影社長が誰とお見合いしようと私には関係ありませんから』

 彼女の言葉がまるでナイフのように、彼の心を深くえぐる。
 焦燥がまるで全身を虫のように這ってくる。

『今までも命令されていたから仕方なく一緒にいたんです』

 恭司の呼吸が促迫してくる。
 
『順一との結婚話を受けるのか?』

 恭司の声が掠れた。
 けれども、美桜は何も答えずに、彼の横を猫のようにすり抜けていく。
 彼は震える手を彼女の背に向かって伸ばす。

『お願いだ。答えてほしい、美桜』 

 答えを聞いたら心が壊れてしまいそうだ。
 だが、このままだと彼女がどこかにいってしまう。

 ――恭司は美桜の手首を掴んだのだった。


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