あなたを手放す予定は、私の計画にありません――冷徹な首切りコンサルに、規定外の溺愛をされています
電話機のない部屋
その日の夜、十九時過ぎ、残った資料整理を片付けていると、フロアの入口で足音がした。
篠宮だった。
製造棟から、直接戻ってきたらしい。
ジャケットの肩が、少し湿っている。
外は小雨のようだ。
「まだいたんですか」
「資料の整理が残っていたので。……あの、戸倉さんは」
聞いてから、続く言葉に詰まる。
怒っていましたか、は変だし、大丈夫でしたか、も変だ。
篠宮は自分の席に鞄を置きながら、事務的に答えた。
「怒っていました。最後まで」
「……そう、ですか」
「二課の若手の雇用不安と、夜勤手当がなくなるという噂の出どころ。あとは、十五年前の合理化のときのように、会社はまた約束を破るんじゃないか、という話です」
すらすらと出てきた。
メモも見ずに。
「三十年分の話を、九十分で聞くのは無理です。続きは来週にしました」
(続き、あるんだ)
机の上に、篠宮のノートが開いたまま置かれている。
癖のない字は、逆さまからでも、いくつか読めた。
──戸倉氏。
二課、島田・青木の件。
夜勤手当の噂、出どころ要確認。
十五年前の労使合意、議事録請求。
このみの視線に気づいたのか、篠宮はノートを閉じた。
「来週、十五年前の労使協議の議事録をお願いします。倉庫でしょうが」