軍医と傷読みの花嫁 ~閉じこもり薬師は、傷もちの旦那様に愛される〜
21話 兄が残した言葉
「旦那様。薬種問屋のご主人がいらっしゃっています」
接客を終えた源一郎に、千代がそう声をかけた。
「わかった」
凪は薬箪笥へ薬を納める手を止めた。
「帳場を頼むぞ、凪」
「はい」
凪は、すうっと静かに引き出しを戻した。
「頭痛のお薬をもらえるかしら」
若い女性客がやってきて、すぐに凪が対応する。
「肩も凝りますか?」
「ええ、そうなの。最近、帳場仕事が続いてね……」
「では、川芎がよろしいですね。少々お待ちください」
薬箪笥から乾燥した川芎を取り出し、薬研へ入れる。刻んでいる最中、隣で帳簿を広げ、商談する薬種問屋の主人と父の会話が耳に入った。
「では、ゲンノショウコを二十斤。センブリは例年より多めに頼みます」
「承知しました。しかしご主人、心配したよ。もう無理はなさらんようにな」
「ははっ、まだまだ現役ですよ」
そう笑った途端、源一郎は激しく咳き込み、口元を押さえた。
「……失礼」
それでも何事もなかったかのように、父は帳面へ筆を走らせる。
(父上……まだ無理をなさっている)
凪は手を止め、思わず父の痛々しい背中を見つめた。