軍医と傷読みの花嫁 ~閉じこもり薬師は、傷もちの旦那様に愛される〜
台所では、千代が昼餉の準備をしていた。
そこへ凪が様子を見にやって来る。
千代は丁寧に白粥をよそい、薄味で炊いた白身魚と豆腐の吸い物を盆に並べていた。
「旦那様は病み上がりですので、お身体に負担がかからないお食事にしています」
千代は生き生きとした顔で微笑む。
(千代さんも、ここにきてくれて本当によかった)
「ここまで父の身体を気遣ってくれて……千代さん、ありがとう」
「とんでもないです! 私がこうして働けるのも、お二人のおかげですから!」
千代は手を止めず、急須に番茶を注ぐ。
「お嬢様がいらっしゃる日は……旦那様、本当に生き生きとされています」
「私……無理をさせていないかしら?」
千代が慌てて、カシャンとヤカンを戻した。
「反対ですっ! お嬢様がいると安心されるのか、お食事もきちんと召し上がってくださるんですよ⁈」
「……いつもは?」
千代は気まずそうに目を逸らした。
「朝からお客様がいらっしゃいますから……私は素人ですから、薬には手を出せませんし、お一人だと休憩も取れなくて……」
咳き込む父の背中が脳裏をよぎる。
(……父上を守りたい)
凪の胸に、強い思いが芽生える。
台所を出て、店に立つ父の小さな姿を遠目に見つめた。
(私が安藤家を出たら……父上はどれほど悲しむだろうか)
凪は一つ深く息を吐くと、奥の部屋へと向かった。