恋のメンテナンスは必要ですか?
第一章 出会い
第一話 「よかった」
父は大企業に勤める会社員で、営業部長を任されている。
営業という仕事柄、人間関係もそこそこ広く、お客さんや友人のパーティーにも定期的に呼ばれていた。
だけど、母はそういうものが得意ではなくて。
私が二十歳を超えた頃から、父は母の代わりに私を連れて行きたがった。
かくいう私もあまり得意ではないのだけれど……。
「でも行かないとお父さん悲しい顔するし……」
パーティー会場の端で配られたワインを片手に持ちながら彩は壁の花に徹していた。
高校を卒業して六年、歯科衛生士の大学を卒業して二年。
卒業後はやってみたいと願っていた歯科衛生士になって歯科医院に就職。
社会人二年目で二十四歳の彩は、父から頼まれ何度目かわからないパーティーに来ていた。
一口。
彩はまたワインを飲む。
トップソムリエの主催するパーティーというだけあってワインがとても美味しい。
彩はお酒に強くないが、最近友人といったワインバーで白ワインを飲んでから、ワインが気に入っていた。
父には『え〜父さんは赤の方が』とよくわからないクレームを受けたがしったこっちゃない。
特にワインに対して知識もない彩はとにかくこの風味が気に入っていた。
銘柄?年代?……よくわからないけれど、とにかくこの味が好きなのだ。
今回のは前のよりなんというか……甘くないけれど。
色んな業種の人間が溢れるパーティーに娘を連れてきた父親は交友関係に忙しいのか、娘を放ってどこかに行ってしまった。
広いホテルの会場を見回すと離れたところで父が年代の近そうな男の人達と楽しそうにお酒を酌み交わしているのが見えて。
その姿に安堵を感じつつもちょっと苛立ちを滲ませる。
「……連れてくるだけ連れてきていつもこれなんだから」
何度来ても慣れないパーティーのために購入した深いワインレッドのドレスは窮屈で。
彩は壁にもたれ掛かり、深く息を吐く。
持っていたグラスを回し、ワインの揺れを見つめた。
(……帰りたい)
そう思っていると横から低い声で「お一人ですか?」と声をかけられた。