恋のメンテナンスは必要ですか?

 壁に預けきっていた背中を立たせ、口につけていたグラスを離す。
 横を向くと見たこともないような綺麗な顔の男がワイングラスを片手にこちらを見つめていた。

 アッシュグレーの髪に前髪は真ん中で分かれていて。
 スーツの上からでもわかる引き締まった体に高身長。
 なんといっても顔は芸能人のように整っている。
 特に、切れ長な瞳は大人の色気を感じさせた。

 彩は男を観察し終えると興味もなさそうに視線を逃す。
 
「…………いえ、父と来てて」
「そうですか。お父様はどちらに?」

 男の質問に心の中でため息をつきながら、遠く離れたパーティー会場のテーブルを指さす。
 
「……あっちで話してますね」
「では、今はお一人なのですね」

 
 (………………苦手だなぁ……)

 彩は愛想笑いを返しながら僅かに眉を顰める。
 
 どうみても素敵な男性。
 だけど、こういう男性は苦手だ。

 何度も父と様々なパーティーに参加していた彩は知っていた。
 こういう場所での知らぬ人間への声掛けは仕事のコネ作りか愛人の勧誘か、もしくはワンナイトの遊び相手探しか。
 壁の花に徹していると色んなものが嫌でも見えてくる。

 
(雑に扱いたくてもお父さんの知り合いだったら気まずいしなぁ)

 声をかけられても当たり障りなく返し、なんとか逃げてきた。
 今回もそのつもりで話に答える。

 
 彩は見目麗しい男が苦手だった。
 歴代の元カレたちは見た目が良かったものの中身はクズばかり。
 付き合うまでは優しかったのに、自分のものになってしまえば所有物扱い。
 浮気、DV、ストーカー。

 正直、恋愛自体もう遠慮したい。
 
 もし今後恋愛することがあったとしても、普通が一番。
 心の底からそう思っていた。
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