花詠み ―雪中花―

第四話

 雪が融けたばかりの春先のある日。
 そこは遊郭へと続く一本坂。
 男が笑い、女が泣く、そんな終わりなき生き地獄へ、ひとりの少女が向かう。
 彼女はまだ幼かった。
 つぎはぎだらけの粗末な着物を纏い、僅かな荷物を背負っている。

「はよう歩かんか! 日が暮れてしまう」

 少女を親から買い取り妓楼に売り渡す女衒(ぜげん)の男が振り返り、少女を怒鳴りつけた。

「へぇ。……すんません」

 少女は寂れた村からやってきたのだろう。
 目に映る都会の光景に足を止め、初めて訪れた町をぐるりと見回した。
 行く手には黒塗り板葺(いたぶ)きの、屋根付き冠木門(かぶきもん)――大門(おおもん)がそびえ立つ。

「あの門をひとたび潜れば、おいそれと出てこられないからな」
「……どうすれば、みんなに会える?」
「年季が明けたら会えるだろうよ。さあ行くぞ」

 男の言葉にショックを受けたのか、少女の足は不安と恐怖に震えていた。
 それでも先に行く男は待ってなどくれない。

「おっかさんのため、家族のため……」

 少女は念仏のようにそう呟きながら、大門に向かってまた歩き始めた。
 その時だった。
 坂の左降り口に立つ柳の木の辺りに差しかかった時、鈴の音が聞こえた。
 それは旅の僧だ。
 白装束を纏い、錫杖をつき、笠を深くかぶっている。
 この僧は、この世の者とは思えぬほど美しい顔立ちをしていた。
 少女は思わず後ろを振り返り、通り過ぎた僧の姿を眼で追うも――。
 その僧の姿はもう見えない。
 ただ白い水仙の花が一輪、道端に落ちているだけだった。

「花……?」

 少女はこの水仙の花を拾い上げた。
 なぜ拾ったのか、わからないまま。
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