今だけの婚約者~身代わりのはずが、冷たい旦那様にお腹の子どもごと愛されていました~

家族になって

「藍、急にごめんね。実は……」

 蓮さんの出張中にマンションを追い出され、途方に暮れながら親友と連絡を取った。

『ひどすぎる! わかった、唯。実家には今すぐ連絡を入れるし、私も向かうわ。途中で合流しよう』

 彼女の返答にほっとしながら、少ない荷物を手に駅に向かう。そうしながら、少し前に起こったことを思い出す。

 蓮さんと暮らしたマンションに、舞は突然やって来た。彼が出張に出て不在だと、父から聞いたという。

『どうせ、大したものなんてないんでしょ。唯のものは全部処分させておくから、さっさと出ていってよ』

 私を自室に押し込み、舞は手近にあったバッグを押しつけてそう言い放った。
 急かされる中、なんとか持ち出せたのは貴重品のみ。蓮さんにぷれぜんとされたアクセサリーは、高価そうだと判断した舞に取り上げられてしまった。

 蓮さんとは、これで終わり。じわじわと実感が沸き、胸が痛みだす。
 
 この後、お世話になる藍の家族に会う。だから、メイクが崩れてしまわないように泣くのはなんとか我慢した。

「唯ちゃん、久しぶり。すっごく綺麗になったね」

 そう笑顔で迎えてくれたのは、藍の弟の裕樹(ゆうき)君だ。
 私たちの四歳下で、子どもの頃は藍の背に隠れがちだった男の子。その彼が、女性に対してお世辞を言えるようになったことにはびっくりした。

「お世話になります。裕樹君も、ずいぶん大人びたね」

 彼は大学で栄養学を学びながら、両親が営む食堂を手伝っているという。もうすぐ卒業を控えており、その後は他店で働かせてもらいながらさらに料理の勉強をするのだという。

「足手まといになってしまうかもしれませんが、お店の手伝いを精いっぱい頑張ります。どうぞ、よろしくお願いします」

「やあね、他人行儀すぎるわよ。唯ちゃんが来てくれるのを、待っていたのよ」

 藍のお母さんがにこやかにそう話す隣で、お父さんもうなずいてくれる。

「しばらくはゆっくりして、体調を見ながらできることを手伝ってくれたらいいわ」

 その日の夜は、家族皆で私を歓迎するちょっとしたパーティーを開いてくれた。お父さんと裕樹君の作る美味しい料理をいただいた上に、私が持ってきたケーキも食べ、楽しい時間を過ごすことができた。
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