今だけの婚約者~身代わりのはずが、冷たい旦那様にお腹の子どもごと愛されていました~
「娘が、申し訳ありませんでした」

「謝罪はけっこう」

 悪いのは娘だけではないと、まだわかっていないのか。

「さて、うちに来ていた唯さんのことだが」

「はい」

「彼女は真面目で聡明で、素晴らしい女性だ」

 すっかり沈んだ顔をしていた藤沢社長が、ぱっと表情を明るくする。

「数カ月暮らしてきた中で、彼女とは想いを通わせ合っている。私たちは、このまま結婚するつもりだ」

「で、でしたら、仕事の方は……」

 図々しい男だ。明らかに藤沢家に非があるというのに、打ち切られはしないと確信しているようだ。

 父がチラリとこちらを向く。
 藤沢舞を完全に拒否するのは高宮家全体の意志だが、唯との結婚と仕事に関しては俺に任せられている。

「唯さんとの結婚は、あくまで個人の感情によるもの。会社同士のつながりは関係ない。しかし、提携に関して後戻りするには少しばかり遅すぎる」

 期待に満ちた目を向けられて腹が立つ。

「だが、信頼できない相手と仕事はできない」

「ど、どういう?」

「藤沢屋は、高宮の傘下に取り込むように準備を進めている。総指揮を執るのは、現副社長だ」

 トップを挿げ替えは決定事項。

「なっ、まさか……」

 こちらの動向に気づかず、のうのうとしていたこの社長にすべての責任がある。

 今の社長では、会社を守れない。藤沢屋の副社長を務める縁籍の男も、そう認識している。
 さらに一部の社員らは、たまに会社に顔を出しては好き勝手していく舞にうんざりさせられてきた。経営が右肩下がりだというのに、そんな娘に法外の給料を払うと決めた社長にもだ。

 今さらうな垂れても遅い。
 呆然とする藤沢社長に帰るよう促し、室内がようやく静かになる。

 話は片づいた。
 これで唯を迎えに行けると安堵する半面、彼女は今頃どうしているだろうかと気がかりで仕方なかった。




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