社長の推しは、地味メガネのわたしでした。

自己嫌悪

「ある訳ないか……」

 メールの着信画面を何度開いても、無意味だと言う事はわかっている。ただ、その行為を止める事だけは出来なかった。

 私室の隅に置かれたソファの背に身を委ね、今日何度目かのため息をこぼす。

 あの夜を境に、颯真さんからの連絡はパタリと止まった。

 彼行きつけのバーでヤケ酒をした挙句当たり散らし、それでも追いかけて来てくれた彼を誘うような真似をした、はしたない女。幻滅されても不思議ではない。しかも、自分から誘っておいて寝落ちするなんて、本当タチが悪い。そんな女とは、さっさと縁を切りたいと考えるのが普通だろう。

 それに、颯真さんの『鏡レンナの人となりを知る』という目的は達成されたのだ。

 ウキウキ顔で今朝告げられた美春の言葉が胸をえぐる。

『一色さんとデートなの♡ 今日は、どこに連れて行ってくれるのかなぁ? この前の水族館デートも良かった。美春のためにって貸し切ってくれたの』

 お化粧をしながら自慢げに語られる颯真さんとのデート内容に、興味のない振りをするので精一杯だった。

 今頃二人は楽しいデートか。

 あの夜と同じように手を繋いで歩いて、お姫さまのようにエスコートされて、美味しい食事の後は夜景の観えるホテルの一室で、二人は――

 颯真さんと美春のキスシーンが脳裏を掠め、慌てて二人の映像をかき消すが、心に負ったダメージは想像以上に大きかった。

「二人は、付き合いだしたのかな……」

 ポツリと呟いた言葉は、静かな部屋に響き消えていく。

 もう考えるのをやめよう。元々、颯真さんとは住む世界が違うのだ。華やかな世界に身を置く妹とならまだしも、何の取り柄もない私が彼の隣に並べる訳ないのだ。

 社長と平社員の関係に戻るだけ。

 手に持ったスマホのバイブ音に顔をあげ、画面を見て涙が込み上げる。

『今日の定期配信はお休みしてね。一色さんと楽しい夜を過ごす事になったから』

 楽しい夜って何よ……

 どうせ二人でラブラブな夜でも過ごすんでしょうよ!

 本当、未練たらたらにもほどがある。

 そんな自分にも嫌気がさし、腕に抱えたクッションに顔を埋めれば、目から溢れ落ちた涙を布地がすべて吸い取ってくれる。

 吸い取られた涙のように、この想いも全て消えてなくなってしまえばいいのに。

 そんな事を本気で思うほどには病んでいた。
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