社長の推しは、地味メガネのわたしでした。
『Vチューバー花音』の実写版『鏡レンナ』のデビュー話は、穂花に来ていたと考えるのが妥当だろう。ただ、顔を出して『鏡レンナ』としてデビューする事を、穂花は受け入れられなかった。顔を隠しているからこそ自分を曝け出す事が出来る。彼女の性格を考えれば、世間に顔を晒す事は恐怖でしかなかっただろう。そこで白羽の矢が立ったのが穂花の妹、美春さんだった。
少し話しただけでもわかる美春さんの社交性は天性のものだ。まさに対外向け。ただ、『花音』の知名度の方が圧倒的に高かったデビュー当初は『花音』としての活動を重視せざる負えない。しかし、美春さんに『花音』としての活動まで移せば、ファンに入れ替わりが気づかれる可能性がある。だからこそ、穂花は『花音』としての活動を止めることが出来なかった。その結果、表の『鏡レンナ』と、裏の『Vチューバー花音』という構図が出来上がった。そして、『鏡レンナ』の知名度が『花音』の知名度を上回った現在も変わらずに、その関係性は続いている。
その結果、表の『美春』と裏の『穂花』という関係性が、プライベートをも支配するようになってしまった。
バーでぶつけられた言葉が穂花の本心だとするならば、今の現状に彼女は不満を抱いている。決して、鏡レンナの影武者としての自分の立場を受け入れている訳ではないのだ。ただ、今の穂花にその関係性を打破するだけの勇気も、気力もない。だからこそ、自分が『花音』だということを誰にも打ち明けられず、苦しんでいるのだろう。
「一歩を踏み出す勇気をくれた人か――」
自我を殺し現状を受け入れることしか出来なかった穂花を変えたのが俺だと、彼女は言った。
兄と比べられ、周りの期待に怯え、全てを諦めた過去の俺と穂花が重なる。
『花音』が過去の俺を救ってくれたように、彼女を救う事は出来ないのかもしれない。ただ、背中を押してあげる事は出来る。
穂花が自分らしく生きていけるように。
そのために何をするべきか――
ベッドサイド脇のチェストからスマホを取るとメール画面を開く。
『一色さん、今日は姉がご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。そのお詫びと言ってはなんですが、今度ご飯でもいかがですか? 二人きりで……』
文面を見つめ、嫌悪感から顔が急速に強張っていく。
あからさまな誘いをかけるあたり、一色グループの御曹司という立場でしか人を見ない輩と同じ匂いがする。ただ、初めて顔を合わせた時、一瞬だけ見せた憎悪の感情が引っかかる。
その感情の発露がなんなのか?
ただの姉に対する嫉妬なのか、それとも――
「――穂花、……」
トンッとぶつかってきた衝撃に見下ろせば、寒かったのか身動いだ穂花が身体を寄せて来ていた。その愛くるしい態度に、思考の波は一瞬で停止してしまう。スヤスヤと寝息を立て眠る彼女の唇がわずかに開く。
「――好きって言った言葉、もう撤回出来ないからな」
わずかに赤い舌が覗く唇に、深く唇を合わせた。
少し話しただけでもわかる美春さんの社交性は天性のものだ。まさに対外向け。ただ、『花音』の知名度の方が圧倒的に高かったデビュー当初は『花音』としての活動を重視せざる負えない。しかし、美春さんに『花音』としての活動まで移せば、ファンに入れ替わりが気づかれる可能性がある。だからこそ、穂花は『花音』としての活動を止めることが出来なかった。その結果、表の『鏡レンナ』と、裏の『Vチューバー花音』という構図が出来上がった。そして、『鏡レンナ』の知名度が『花音』の知名度を上回った現在も変わらずに、その関係性は続いている。
その結果、表の『美春』と裏の『穂花』という関係性が、プライベートをも支配するようになってしまった。
バーでぶつけられた言葉が穂花の本心だとするならば、今の現状に彼女は不満を抱いている。決して、鏡レンナの影武者としての自分の立場を受け入れている訳ではないのだ。ただ、今の穂花にその関係性を打破するだけの勇気も、気力もない。だからこそ、自分が『花音』だということを誰にも打ち明けられず、苦しんでいるのだろう。
「一歩を踏み出す勇気をくれた人か――」
自我を殺し現状を受け入れることしか出来なかった穂花を変えたのが俺だと、彼女は言った。
兄と比べられ、周りの期待に怯え、全てを諦めた過去の俺と穂花が重なる。
『花音』が過去の俺を救ってくれたように、彼女を救う事は出来ないのかもしれない。ただ、背中を押してあげる事は出来る。
穂花が自分らしく生きていけるように。
そのために何をするべきか――
ベッドサイド脇のチェストからスマホを取るとメール画面を開く。
『一色さん、今日は姉がご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。そのお詫びと言ってはなんですが、今度ご飯でもいかがですか? 二人きりで……』
文面を見つめ、嫌悪感から顔が急速に強張っていく。
あからさまな誘いをかけるあたり、一色グループの御曹司という立場でしか人を見ない輩と同じ匂いがする。ただ、初めて顔を合わせた時、一瞬だけ見せた憎悪の感情が引っかかる。
その感情の発露がなんなのか?
ただの姉に対する嫉妬なのか、それとも――
「――穂花、……」
トンッとぶつかってきた衝撃に見下ろせば、寒かったのか身動いだ穂花が身体を寄せて来ていた。その愛くるしい態度に、思考の波は一瞬で停止してしまう。スヤスヤと寝息を立て眠る彼女の唇がわずかに開く。
「――好きって言った言葉、もう撤回出来ないからな」
わずかに赤い舌が覗く唇に、深く唇を合わせた。