社長の推しは、地味メガネのわたしでした。

熱愛報道

 リビングのソファに腰掛け、テレビ画面を注視する。数日前から芸能を賑わしているあるニュースの見出しが今も画面を占拠している状態に、心の中は荒れ狂っていた。

『鏡レンナ、恋人発覚!? お相手は有名企業の若手社長』

 そんなありきたりなテロップでさえ、私の心を動揺させるには充分だった。

 昨夜、取った『Vチューバー花音』としての最後の配信。これを最後に『花音』は消えるはずだった。

『花音』を辞め『清瀬穂花』として、颯真さんに想いを告げようと思っていた。彼の心に私がいなくとも『好き』という気持ちだけは最後に伝えようと。

「はぁぁ……」

 テレビ画面を見つつ今日何度目かのため息をつく。

 鏡レンナと颯真さんの熱愛報道。

 いつかこんな事になるのではないかと思っていた。妹から告げられる彼とのデート内容は、日に日に親密度を増していたのだ。今も画面から流れるスクープ映像は、高級レストランから手を繋ぎエントランスを出る二人を激写している。もしかしたら、最後の配信を取ったあの夜の写真かもしれない。あの夜、美春は帰って来なかったのだから。

 二人の事を考えれば考えるほど、心に刻まれる傷は増えていく。

 今も画面でペラペラと自論を展開するコメンテーターが、二人の結婚は秒読みではないかと言っている。その根拠に掲げられた『花音引退』のフリップが、さらに私を追いつめる。

 今朝スクープとして放送された花音の引退報道が、二人の熱愛報道に信憑性を与える結果になるなんて、皮肉でしかない。

――でも、もう逃げない

 一歩を踏み出すと決めたのだ。もう影の存在の自分とは訣別する。

 それには、美春を説得しなければならない。彼女の性格を考えれば、私が花音をやめる事を絶対に許さない。だから、美春に何も言わずに、花音としての最後の配信をとった。
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