社長の推しは、地味メガネのわたしでした。
揺れる心
「ここって……」
目の前にそびえ建つ高層ビルを見上げ、自分のデスクに置かれたパソコンのトップ画面を思い出す。毎日見ている画面だったが、よく考えてみたら、この場所に来たことはなかった。
一色グループの本社ビル。
なぜ、颯真さんがこの場所に連れてきたのかはわからない。ただ、彼は以前、本社で双子の兄が働いていると言っていた。副社長として本社で働く優秀な兄と、お飾り社長でしかない自分と比べ腐っていたと。
その事と何か関係があるのかもしれない。
「どうして、こんなところに連れてきたんだって思っているんだろう?」
「はい……、ここ一色グループの本社ビルですよね」
「あぁ。俺の劣等感の塊みたいな存在だな」
「それって、以前、颯真さんが言っていたお兄さんに抱いていた劣等感のことですか?」
「そう。花音と出会う前までは、このビルに近づく事さえ嫌だった。前、話したよね、双子の兄のこと」
「はい。小さな頃から比べられて育ったと。本社で副社長をしている兄と比べて自分はお飾りの社長でしかない。そんな状況に甘んじるしかなくて腐っていたと」
「あぁ、当時の俺は本当、腐っていた。誰かと自分を比べて、勝手に卑屈になって、劣等感の塊だった。どうして、俺がお飾りって言われていたかわかる?」
えっ、どういうこと?
てっきり優秀な兄と比べられ、その能力の差からお飾り社長と周りから揶揄されるようになったとばかり思っていたけど違うのだろうか。ただ、今の颯真さんの名声を考えるとお飾りと言われていたこと自体信じられないのも事実だ。
ここ数年の一色コーポレーションの業績はうなぎ登りだ。大々的に広告を打って、グループ会社の商品の売上に――
そこまで考えて、はたと気づいた。
「一色コーポレーションの主な仕事はプロモーション。まさか……」
「そのまさかだよ。俺の社長としての役割は、一色グループの広告塔。だからお飾りって言われていたんだ。この顔を使って接待し、顧客を取り込むことしか能がない。だからお飾りだって」
まさか……、そんなことって……
確かにどんな分野でも売るモノがなければ、利益は産まれない。しかし、売るモノがあっても、それを消費者へ売るためのプロモーションを疎かにすれば、いくら良い商品であっても売れない。ただ、売るためのプロモーションを軽視する者たちが一定数いるのも事実だ。
「しかも副社長として会社の顔となるべき兄の唯一の欠点が社交性だった。本当、あり得ないよな。断固として、顔を売るための集まりに出席しないんだよ。馬鹿と話すのは時間の無駄だってさ。優秀すぎるからこその弊害だったんだろうな」
優秀過ぎるあまりの弊害か……
一色グループの顔として兄の代わりを務めなければならなくなった颯真さんの気持ちが痛いほどわかる。広告塔として華やかな世界に身を置きながら、その実態は、兄の代わりでしかない。
まるで妹の影の存在である私と同じよう。
光の世界に身を置きながら、実際は影の存在でしかない。
そんなのって、ない……
「当時はそんな自分の立場が嫌で嫌で仕方なかった。嫌だからという理由だけで社交の場に出ない兄のわがままは許されて、なぜ自分は兄の代わりをしなければならないのかって。そんな子供じみたわがままでさえ許される兄の立場に嫉妬していたのも事実だ」
美春の影としての自分の立場。彼女のわがままで自分のプライベートでさえ自由にならない。
それだけではない。言動や行動でさえ制限される。
一緒ね……
自分の意思とは関係なく全てが決まって行く感覚。誰かのスペアとして人生のレールがひかれていく感覚。彼もまた、私と同じように感じていたのだろう。
ただ、今の颯真さんと私は違う。
彼は言っていた。
『花音』と出逢った事で、兄に対する劣等感を払拭したと。
目の前にそびえ建つ高層ビルを見上げ、自分のデスクに置かれたパソコンのトップ画面を思い出す。毎日見ている画面だったが、よく考えてみたら、この場所に来たことはなかった。
一色グループの本社ビル。
なぜ、颯真さんがこの場所に連れてきたのかはわからない。ただ、彼は以前、本社で双子の兄が働いていると言っていた。副社長として本社で働く優秀な兄と、お飾り社長でしかない自分と比べ腐っていたと。
その事と何か関係があるのかもしれない。
「どうして、こんなところに連れてきたんだって思っているんだろう?」
「はい……、ここ一色グループの本社ビルですよね」
「あぁ。俺の劣等感の塊みたいな存在だな」
「それって、以前、颯真さんが言っていたお兄さんに抱いていた劣等感のことですか?」
「そう。花音と出会う前までは、このビルに近づく事さえ嫌だった。前、話したよね、双子の兄のこと」
「はい。小さな頃から比べられて育ったと。本社で副社長をしている兄と比べて自分はお飾りの社長でしかない。そんな状況に甘んじるしかなくて腐っていたと」
「あぁ、当時の俺は本当、腐っていた。誰かと自分を比べて、勝手に卑屈になって、劣等感の塊だった。どうして、俺がお飾りって言われていたかわかる?」
えっ、どういうこと?
てっきり優秀な兄と比べられ、その能力の差からお飾り社長と周りから揶揄されるようになったとばかり思っていたけど違うのだろうか。ただ、今の颯真さんの名声を考えるとお飾りと言われていたこと自体信じられないのも事実だ。
ここ数年の一色コーポレーションの業績はうなぎ登りだ。大々的に広告を打って、グループ会社の商品の売上に――
そこまで考えて、はたと気づいた。
「一色コーポレーションの主な仕事はプロモーション。まさか……」
「そのまさかだよ。俺の社長としての役割は、一色グループの広告塔。だからお飾りって言われていたんだ。この顔を使って接待し、顧客を取り込むことしか能がない。だからお飾りだって」
まさか……、そんなことって……
確かにどんな分野でも売るモノがなければ、利益は産まれない。しかし、売るモノがあっても、それを消費者へ売るためのプロモーションを疎かにすれば、いくら良い商品であっても売れない。ただ、売るためのプロモーションを軽視する者たちが一定数いるのも事実だ。
「しかも副社長として会社の顔となるべき兄の唯一の欠点が社交性だった。本当、あり得ないよな。断固として、顔を売るための集まりに出席しないんだよ。馬鹿と話すのは時間の無駄だってさ。優秀すぎるからこその弊害だったんだろうな」
優秀過ぎるあまりの弊害か……
一色グループの顔として兄の代わりを務めなければならなくなった颯真さんの気持ちが痛いほどわかる。広告塔として華やかな世界に身を置きながら、その実態は、兄の代わりでしかない。
まるで妹の影の存在である私と同じよう。
光の世界に身を置きながら、実際は影の存在でしかない。
そんなのって、ない……
「当時はそんな自分の立場が嫌で嫌で仕方なかった。嫌だからという理由だけで社交の場に出ない兄のわがままは許されて、なぜ自分は兄の代わりをしなければならないのかって。そんな子供じみたわがままでさえ許される兄の立場に嫉妬していたのも事実だ」
美春の影としての自分の立場。彼女のわがままで自分のプライベートでさえ自由にならない。
それだけではない。言動や行動でさえ制限される。
一緒ね……
自分の意思とは関係なく全てが決まって行く感覚。誰かのスペアとして人生のレールがひかれていく感覚。彼もまた、私と同じように感じていたのだろう。
ただ、今の颯真さんと私は違う。
彼は言っていた。
『花音』と出逢った事で、兄に対する劣等感を払拭したと。